第180回「日本劣等改造論(12)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― 依存のすすめ(後編)―

前編で、日本全体に「自立せねばならぬぞ」という父性呪術がかけられていて、それが劣等感を募らせ、さらには依存症の元になっているという話をした。後編ではこの父性呪術の解き方に触れたいのだが、その解き方をすでに提唱している大学教授がいる。東京大学・東洋文化研究所の安冨歩さんなのだが、彼いや彼女に甘えて、引用させてもらおう。

歩(あゆみ)さんの著書「生きる技法」(青灯社)に自立せねばならぬぞ呪術の解き方が書かれてある。ちなみに歩さんはわかりやすく「命題」として説明されている。

命題1 自立とは多くの人に依存することである
命題2 依存する相手が増える時、人はより自立する
命題3 依存する相手が減る時、人はより従属する
命題4 従属とは依存できないことだ
命題5 助けてください、と言えたときあなたは自立している

これは自力の父性呪術をひっくり返す「術返し」である。自立せねばという考えを否定するのではなく、その「自立せねば」に乗っかって、術を解こうとしている。ネバネバを解いていく歩さんの智慧はすごい。

人に甘えてばかりではいけないので、私なりの解説をいれネバ。

「命題1 自立とは多くの人に依存することである」
→多くの人の助けを得られている状態が自立だということ

「命題2 依存する相手が増える時、人はより自立する」
→ということは、他者の助けが増えれば増えるほど自立度合いが高まる

「命題3 依存する相手が減る時、人はより従属する」
→逆に、助けがいないとき、自由を奪われた状態になるしかない

「命題4 従属とは依存できないことだ」
→自由を奪われた状態とは、助けを求められない状態である

「命題5 助けてください、と言えたときあなたは自立している」
→「Help!」といえる状態がすでに自立である

自力で生きようと頑張れば頑張るほど、何かに支配されてしまうよ、ということ。それが依存症につながると前編で解説をしたように。

本当の自立とは依存がベースにあるということだ。

「自立」という言葉にはそうあらネバという強制感がすでに染みこんでいて、「依存」という言葉にもネガティブな印象が染みこんでいるので、ここからは、この世界観を仏教用語の「他力本願」で表すことにする。(他力本願もネガティブな印象があるが、依存よりはましなので・・)

歩さんの命題を他力本願で言い換えてみよう。

命題1 本願は多くの他力によって成就する
命題2 他力がたくさん使える時、人はより本願にいたる
命題3 他力が減る時、人はより従属する
命題4 従属とは他力が使えないことだ
命題5 助けてください、と言えたときあなたは本願にいたる

となる。

戦国時代の事実を元にした小説「のぼうの城」では、忍城の総大将がでくのぼう(自立していないポンコツリーダー)であったのに、優秀で自立した石田三成の攻撃を防ぎきった。部下の力、民衆の力といった他力を集めることで攻撃を耐えきったのだが、まさに他力本願の世界観を表している。

歩さんは公に女装をし、名前の読みを「あゆむ」から「あゆみ」に変えたことで、この呪術を解いた。まずは、歩さんの命題をお経のように唱えてみることから始めてみたい。呪術が少しずつ解けていくのがわかるだろう。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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