商いと、金融と

ビジネスという言葉でひと括りにされるが、
そこには様々な業種がひしめいている。
メーカー、商社、飲食、金融、農業、観光などなど、
数えきれないくらいの業態が世の中には溢れている。

「そもそもビジネスとは何か」という根源的な問いもあるが、
今回は『ビジネス=金儲け』という図式で考えてみたいと思う。
ビジネスとは、何らかの活動をすることによって、
収益を上げる活動。
そう考えるならば、どの業種も、どの業態も、
ビジネスという範疇に収まってしまう。

だがそこには明らかに、
全く異なる二つのビジネスモデルが存在する。
金融ビジネスと、それ以外である。
片や、何かを提供する事によって、
その対価としてのお金を受け取るビジネス。
もう一方は、お金そのものが、お金を稼ぎ出すビジネス。
その違いは、私たちが想像するよりも遥かに大きいのである。

金融ビジネスも、
ものやサービスの提供であるという見方も出来る。
たとえば送金というサービスを提供して
手数料を受け取るビジネス、と捉える事も出来るし、
お金という商品を貸し出すレンタルビジネス、
と捉える事も出来る。
だがやはり、その本質は運用ビジネスである。

つまり、上手に動かす事によって、
お金をどんどん膨らませていく、というビジネス。
たとえばお金を株に換え、その株をまたお金に換える。
円をドルに換え、そのドルをまた円に換える。
相場という波を見極め、手持ちの資金を増やしていくのだ。
金融ビジネスが、その他のビジネスと明らかに異なるポイント。
それは、ものやサービスを伴わない収益構造にある。

そもそも「お金」というのは、
ものやサービスと交換するための手段である。
ものやサービスと交換出来ないお金など、
ただの紙切れに過ぎない。
いや、今では紙切れですらない。
それはもはや、コンピュータの中に保存された、
単なる数字に過ぎない。

その数字が、どんどん増えていくのである。
金利によって。
そして、運用によって。
コンピュータに保存された数字は、
コンピュータに運用される事によって増えていく。
ものやサービスとは、かけ離れたところで。

商売をやっていく上で、お金はとても便利な道具である。
だがお金そのものには、実は何の価値もない。
もしも全ての人の口座に、
ある日突然数億円の資金が振り込まれたとしたら、
人々は労働から解放されるのだろうか。
いや、解放されない。
誰かが食料を作り、誰かがそれを運び、
家を建て、掃除をし、修理もしなくてはならない。
全ての人が投資家になる事は不可能なのである。

マイナス金利という現象が意味するもの。
それは、お金がお金を生み出す事の限界である。
最終的にはビジネスは、商いに立ち返るだろう。
ものやサービスを提供し、
顧客の役に立った結果として、対価を受け取るという形に。
お金を増やし続ける事に意味などない。
目の前にある商いこそが、私たちの豊かさの原点なのである。

 

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