量から質へ

私たちは生物である以上、
カロリーを摂取しないと生きていけない。
そして面白いことに、摂取し過ぎてもまた、
死んでしまうのである。
貧困に喘ぐ途上国では、
未だに飢餓で死んでいく人間が後を絶たない。
一方、豊かな先進国では、過食による健康被害で、
これまた大量に人間が死んでいく。

万物の霊長とも言われる人類が、何とも間の抜けた話である。
病気になるほど食糧が余っているなら、
飢餓で苦しむ人たちに分け与えれば良いだけの話である。
だが人間にはそれが出来ない。
量による満足に、ゴールは存在しないからである。

どんなに食べても、しばらくすると腹が減る。
腹が減ったら、また食べたくなる。
食べれば食べるほど、胃袋は肥大化し、さらに大量の食糧を欲しがるのだ。
満腹感による快楽は、長くは続かない。
快楽を得続けるために、食べ続けなくてはならない。
そして食べ続けた結果、死んでいくのである。

量による満足を目的にすると、
そこには不健康な破滅が待っている。
それは決して、食べ物に限った話ではない。
金にしても、人脈にしても、
量だけを増やし続けることには意味がない。
大事なのは「質」という、新しい価値への切り替えなのである。

たくさん食べることではなく、美味しく食べることによる満足。
たくさん稼ぐことではなく、充実して稼ぐことによる満足。
たくさんの知り合いを増やすことではなく、
本当の友達を得ることによる満足。
それこそが人生に深みをもたらす、本当の価値なのだ。
だが残念なことに、多くの国、多くの企業、
そして多くの人間は、まだまだ量の追求に囚われている。

もっと人口を増やし、もっと経済を拡大する。
もっと会社を大きくし、もっと売上を伸ばす。
もっと収入を増やし、もっと財産を増やす。
だがそこにはゴールがない。
量の追求を質の追求に変えない限り、ゴールは訪れないのである。

大きな会社から、小さな会社まで、
気がつけば全ての企業が、
このスパイラルに巻き込まれてしまっている。
だがよく考えてみれば、
小さな会社が量を追求する必要など無いのである。
従業員も、売上も、顧客も、商品も、
追求すべきは数ではなく、質なのだ。

数集めの採用ではなく、本当に会うべき人と出会うための採用。
安さだけではなく、
そこにある価値を理解して買ってくれる顧客。
その顧客に喜んでもらうために、決して妥協せず作った商品。
そうやって積み重ねた売上や利益。
量ではなく質にこだわり続けることが、
小さな会社にとっての命綱なのである。

とは言っても、その切り替えは容易なことではない。
なぜなら周りの評価がそれを許さないからだ。
好きな会社ではなく、
大きな会社に就職することを、周りは評価する。
充実した仕事による報酬ではなく、
より大きな金額の報酬を、社会は評価する。
量の獲得は誰の目にも明らかな成功であるが、
質の獲得は本人にしかわからない成功なのである。
だがそれでも、周りが何と言おうとも、
自分の価値観を優先する。
その時初めて、本当のゴールが見えるのだ。

 

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