たとえば、ポンと1億円を渡されて、
何か事業をやれと言われる。
どこでやってもいいし、何をやってもいい。
それは、とても自由なことに見えて、
とてつもなく大変なことなのである。
駅から遠い、古びた一軒の喫茶店を任されて、
その店を何とか繁盛させろと指示される。
それは、とてつもなく大変なことに思えるが、
実はやるべき事は明白なのである。
制約がない状態と、制約がある状態。
その二つを比較した場合、
制約がある状態の方が、はるかに取り組みは簡単なのだ。
市場を分析し、顧客を想定し、
何が足りないのかを考えればいい。
目指すべきは居心地の良い静かな喫茶店なのか、
美味しい食べ物が売りの喫茶店なのか、
昼から飲んで騒げる喫茶店なのか。
想定した顧客を引きつけるために、目指すべき姿を明確にする。
あとは、その姿に向かって、
足りないものをひとつずつ補っていけばいいのである。
何をやってもいいという状態は、
言い換えれば、手がかりが全くない状態だとも言える。
どこでやるのか、何をやるのか、
誰が顧客なのか、商品は何なのか。
それらが何も決まっていない状態。
これでは、どこから手を付ければいいのかが、
まったく分からない。
例えて言うなら、それは、
社会人デビューしたての若者のような状態だ。
彼らには、養わねばならない家族もいない。
何かをやらなくてはならない、という決まりもない。
与えられた時間は、とてつもなく多い。
何にも縛られず、何をやってもいい、自由な状態。
それほど自由であるにも関わらず、
彼らのほとんどは、どこかに就職することを選ぶ。
就職とは、何時に、どこに行って、
何をやればいいのかを、会社に決められる状態。
確かに、決めてもらった方が、楽ではある。
だがそれは、短期的な楽と引き換えに、
自らの長期的な成長を放棄することを意味している。
本来私たちは、想像しているより、ずっと自由なのである。
だがその自由に、どう対処していいのか分からない。
分からないから不安になり、既存の制約に飛びついてしまう。
だが、その不安を乗り越えない限り、
成長のループは回り出さない。
不安を受け入れ、自分自身の手で、制約を作っていくのだ。
誰を顧客にするのか、何を商品にするのか、
何をやって、何をやらないのか。
決めたことによって、物事は動き始める。
そして動き始めると、制約は課題へと変化していく。
思ったような顧客が来ない。
思ったように商品が売れない。
結果が出ないのは、何かが違うからだ。
では、何が違うのか。
それを考え、修正する。
このステージは、なかなか苦しい。
なぜなら、なかなか結果が出ないから。
だが根気強くやり続けるうちに、少しずつ結果は出始める。
そして、結果が出始めると、また新たな課題が見つかる。
それは、成長したことによって現れる、新たな課題。
解決することによって成長し、
成長することによって課題が見える。
一見不条理に見える、終わりなきマラソン。
だがそれこそが、成長のループなのである。
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