成長と拡大の境目

経営とは下りのエスカレーターを
駆け上がっているようなものである。
立ち止まったら最後、あとは下がって行くだけ。
上へ、上へと、駆け上がり続けるしかない。

多くの経営者はこの考えに賛同するのではないだろうか。
じっさい何もしなければ会社は衰退していくだろう。
だがここに大きな勘違いが
含まれていることも確かである。

それは、駆け上がるという行為が
何を示唆しているのかということ。
多くの経営者はこう考えているのではないだろうか。
会社は成長させ続けなくてはならないと。
そしてそれは売上や利益の拡大を意味しているのだと。

だが果たしてそれは正しいのだろうか。
成長と拡大はイコールなのだろうか。
いったんエスカレーターから降りて
考えてみるべきである。

立ち止まることの恐怖。
それは私にもよく分かる。
いったん止まってしまったら、
もう二度と走れなくなるのではないか。

成長の手を緩めたら、我が社などあっという間に
なくなってしまうのではないか。
だが間違った道を全力疾走することは
自殺行為に等しい。

勇気を持って立ち止まることをお勧めする。
そもそも会社は拡大し続けるべきなのか。
もちろん、変化が必要であることは疑う余地もない。
同じ商品を、同じやり方で、同じ顧客に売り続ける。
そんなことは不可能だ。

何百年と続く老舗は、時代に合わせて
少しずつ変化を繰り返して来た。
だからこそ生き残ってこられたのだ。

より良い商品の開発、
より効果的な売り方の模索、
新たな顧客層の開拓。
それらは生き残るのに不可欠だ。

問題なのは拡大である。
売上や利益を伸ばし続けること。
ここに疑問を抱く経営者はとても少ない。
速いバイクほどこけ難いように、
拡大し続ける会社ほどつぶれ難い。
そう頑なに信じ込んでいる。

だがそれは正しいのだろうか。
スケールメリットをベースにしている
大企業なら話は分かる。
だが中小企業はここで勝負しても勝てないことは明白だ。

小さな会社が取るべき戦略。
それは価値が劣化しない適性規模を
守り続けることである。
商品へのこだわり、サービスへのこだわり、
販売方法へのこだわり、人へのこだわり。
それこそが永続する事業の源泉なのである。

拡大を目的とした事業には、
必ず効率を重視せざるを得ない時がやってくる。
こだわりを捨てて効率を選択した時、
顧客に選ばれ続けて来た価値は毀損する。
安定のための拡大が不安定をもたらすのである。

 


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