商品とは何か。
この質問に向き合っていない経営者は、驚くほど多い。
お客が来ない、ガラガラのラーメン屋には、何が足りないのか。
値段が高い、ラーメンが不味い、サービスが悪い、お店が汚い、
などなど、原因は色々と考えられる。
だが、いくら原因を考えたところで、
繁盛するラーメン屋はつくり出せないだろう。
値段が高くても、ラーメンが不味くても、サービスが悪くても、
お店が汚くても、流行っているラーメン屋はある。
なぜなら、高いかどうか、不味いかどうかは、
個人の価値観によって変化するから。
全ての顧客が、行き届いたサービスや、
お店の清潔感を求める訳ではないから。
では、お客が来ない理由は何なのか。
私の答えはひとつである。
それは、商品が無いから。
無いものは、売れないのである。
だが店主はきっと、私の答えに納得しないだろう。
ウチの商品はラーメンに決まっている、
と腹を立てるに違いない。
経営者が商品に向き合っていない会社。
そこでは社員の苦労が絶えない。
なぜ売れないんだ、もっと頑張れ、工夫しろ、気合いを入れろ、
と怒鳴ってみても、売れないものは売れない。
それは社員の頑張りが足りないからではなく、
商品への向き合い方が間違っているから。
商品とは何か。
この質問に経営者がどう答えるかによって、
ビジネスは全く違ったものになるのである。
土を捏ねて、上薬を塗って、竃で焼き上げれば、
陶器の器が出来上がる。
それを店頭に並べて販売する。
果たして売れるだろうか。
もし売れるとしたら、考えられるケースは二つだ。
ひとつ目は、作者が有名な陶芸家である場合。
その人の作品が欲しい、という顧客がいれば、売買は成立する。
二つ目は、顧客の側が、器の使用目的を持っている場合。
ちょうどこういう器が欲しかった、
という顧客と巡り会えば、売買は成立する。
だが二つ目のケースは、かなり無理がある。
それは、あまりにも運任せ、客間任せの方法で、
とてもビジネスとは呼べない。
出来上がった器を、どういう人に売るのか。
どのような用途に使うものとして売るのか。
それを明確にすることが、商品作りの基本なのである。
陶器の器を、花瓶として販売するのか、
壷として販売するのか、植木鉢として販売するのか。
全く同じ陶器の器が、用途によって全く違う商品へと変化する。
商品が変われば、売る相手が変わり、
売り方が変わり、販売価格も変わる。
つまり、全く別のビジネスになるのである。
商品に向き合わない経営者は、
業界の常識に囚われていることが多い。
ウチは印刷屋だから、建築業だから、美容院だから、
と、商品づくりから目をそらしてしまっている。
印刷屋は印刷物を売るのが仕事、
美容院は髪をカットするのが仕事。
そう決めつけてしまっている。
印刷をします。髪をカットします。
それは、陶器の器を売ります、と言っているのと同じ。
誰に、どういう目的で、その器を販売するのか。
意図を持って、想定した顧客に対し、
特定の価値を提供するもの。
それが商品なのである。
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