近道のセンス

近道を探す(ショートカットする)ことは、
悪いことではない。
問題はそのチョイスである。
どの近道を選ぶのか。
ここで人生の大きな方向性が決まってしまう。

例えば受験における近道を教えてくれるのが、
学習塾である。
志望校を決め、試験の出題傾向を分析し、
合格すべき最短の道を教えてくれる。
受験と関係のない科目には時間を使わず、
出題されそうな部分の勉強に時間を集中させる。

志望校への合格をゴールと考えた場合、
この近道は間違いではない。
だが残念ながら、
志望校への合格は人生のゴールではない。
志望校に合格することは、
良い会社に就職するための手段である。
そして、良い会社に就職することもまた、
安定した良い人生を手に入れるための手段でしかない。

では、安定した良い人生とはどんな人生なのか。
そもそも、安定した人生とは、
経済的な安定を指すのだろうか。
それとも精神的な安定なのか。
あるいはその両方か。
当たり前のことなのだが、
良い人生の定義は人によって違う。

私にとって良い人生とは、どのような人生なのか。
これが明確にならない限り、
人生の近道など探しようがないのである。
だが不思議な事に、
この人生最大の近道を探そうとする人は少ない。
多くの人が利用したがる近道は、
小さなショートカットばかりである。

いかに効率良く志望校に合格するか。
いかに苦労せず有名企業に就職するか。
いかに遠回りせずに出世するか。
近道を通って手に入れたのが、
薄給と、長時間労働と、先の見えない不安。
皮肉な話である。

急がば回れと先人は教えてくれるが、
それを実行することは簡単ではない。
何故ならそれは、あまりにも長い近道だからである。
3年、5年、10年をかけて、
通り抜けなくてはならない近道。
多くの人にとって、それは回り道にしか見えない。

なぜ勉強するのか。
なぜ学校に行くのか。
なぜ働くのか、なぜ会社に入る必要があるのか。
目の前の疑問にいちいち立ち止り、
余計なことに時間を使い、
面倒で遠回りな道ばかりをチョイスする。
そういう人を要領の悪い人と言う。

だが彼らは確実に、
自らの人生のゴールに近づいて行く。
自分にとってはとても大事なこと。
欠かせない経験やスキル。
でも目の前のゴール(受験や就職や出世)には、
全く役に立たないこと。
それをコツコツ積み重ねることが、
人生最大の近道(ショートカット)なのである。


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