業界定義の境目

コーヒーを無料にして場所代をもらう。
場所を無料にしてコーヒー代をもらう。
前者はレンタルスペース業であり後者は喫茶店である。
同じ事業構造でもマネタイズポイントをズラすだけで
違うビジネスになる。
これが商売の面白いところである。

違うビジネスになるとどのようなことが起こるのか。
まず競合が変わる。価格設定が変わる。
利益率も変わるし、サービス内容も変わる。
雇うべき人材も変わるし、報酬も育成方法も変わる。
顧客となるターゲットも変わるし、集客方法も変わる。

バナー広告ひとつの作り方も変わる。
つまり何から何まで変わってしまうのである。
私たちの業界は〇〇だから変えようがない。
よく聞くセリフなのだが、
まず変えるべきは自分達の固定概念なのである。

自分達は何業であるのか。
これを捉え直すことがすべての始まりなのだ。
アメリカの鉄道会社が飛行機によって
駆逐された最大の要因。それは
業界定義にあるのだとドラッカーは述べている。

「鉄道会社」と定義するか
「人と貨物の輸送事業」と定義するか。
それによって次の一手は大きく変わる。
もし「顧客の時間短縮業」と定義していたら、
メールやインターネットを生み出していたかもしれない。

詰まるところ事業とは人間相手のサービス業なのだ。
誰にどのようなサービスを行うのか。
ここを捉え直すことで、昨日までと同じ機械が
まったく違う価値を生み出すかもしれない。
昨日と同じ商品が10倍の価格で
売れていくかもしれない。
相手が変われば価値の定義も根底から変わるのである。

もしドラッカーが喫茶店を経営していたら、
ありがたい話と引き換えにコーヒーの価格を
3万円ぐらいにしただろうか。
ドラッカーに経営相談できるなら3万円は安い。
タダみたいなものだ。

だがきっと売れなかっただろう。
それはマネタイズすべきポイントを
間違えているからである。
うちの業界では絶対に値上げは無理だ。
そう感じるのならきっとそれは正しい。
ただしそれは「同じ商品を、同じ顧客に販売すれば」
という話である。

昨日まで来ていた喫茶店の客に
ドラッカーの話が売れるはずがない。
「今日から私がいい話をするからコーヒーは3万円だ」
などと言えば店が潰れることは確実である。
店は変えない。コーヒーも変えない。
変えるべきは顧客と商品の定義なのだ。
ドラッカーは訪ねてくる客にコーヒー代など請求しない。
なぜなら儲からないからである。

 

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1件のコメントがあります

  1. 毎週コラムを読みいろんな気づきを得ていますが、今日は視点や物事の捉え方を変える柔軟性が自分に欠けているという貴重な気付きを得ました。
    ありがとうございます。

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