第181回「第4のメガバンクは生まれるのか?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第180回「学歴と自己PRの関係」

 第181回「第4のメガバンクは生まれるのか?」 


安田

SBIが新生銀行をTOBした話ですけど。

石塚

おお、新生銀行。

安田

TOBが成立したそうで。今後どうなるのか。

石塚

はいはい。

安田

つまり「いまの経営陣ではだめだ」「株を買って経営陣を総取っ替えしてしまおう」ってことだと思うんですけど。

石塚

でしょうね。

安田

地銀をぜんぶ集めて「第4のメガバンクをつくる」なんて言ってるらしいです。「孫さんの懐刀」と言われてたSBIの北尾さん。

石塚

懐かしい。

安田

「北尾さんならやるんじゃないか」って人もいますけど。いかがでしょう?

石塚

かなりやると思います。

安田

そうですか。

石塚

はい。

安田

新生銀行の経営陣はずっとTOBに反対してましたけど。どっちが正しいのか。

石塚

不良債権処理のときに、国は銀行に大量に公的資金を入れたじゃないですか。

安田

はい。

石塚

新生銀行だけなんですよ。返済が終わってないのって。

安田

なんと。

石塚

つまり、デキが悪いというか、業績がよくないんですよ。

安田

なぜ新生銀行だけがそんなに悪いんですか。

石塚

新生銀行は「個人向けの銀行」としてかじを切ったんです。それがうまくいかなかった。いわゆる投資銀行業務といわれる「金融で稼ぐ商品」に乏しいわけです。

安田

個人ってことは住宅ローンとか?

石塚

おっしゃる通り。ノンバンク、消費者金融事業を抱えているし、クレジットカード会社も持っている。

安田

けっこう儲かりそうな気がするんですけど。

石塚

それだけじゃ借金は返せないですね。

安田

もっと効率よく金融テクノロジーで稼がなきゃだめだと。

石塚

そうです。もっと破壊的に儲かるようなことをやらないと借金は返せない。だけど元が日本長期信用銀行ですから。お公家様体質というか。

安田

つまり「経営陣に能力がなかった」ってことですか?

石塚

まあ、そうですよね。

安田

だから国もTOBを後押しした?

石塚

おっしゃる通り。国もお金を返してほしいから。

安田

旧経営陣が最後まで反対してたのは保身ですか。

石塚

それしかないでしょうね。

安田

ひどい話ですね。でもギリギリまで成立するかどうか微妙でしたよ。

石塚

TOBに新生銀行が応じたのは、金融庁からの圧力もあるんでしょうけど、北尾さんが条件を飲んだんですよ。

安田

条件?

石塚

「ばっさりクビを切るのはちょっとご勘弁を」ってのを、いったん北尾さんが飲んだ。

安田

そうなんですか。

石塚

そう言われてます。

安田

じゃあ旧経営陣もクビにはならない?

石塚

いや、経営陣はクビになる。けど、その他大勢は「まあ、しばらくはこれでお願いしますよ」みたいな。

安田

やっぱり経営陣はクビなんですね。

石塚

クビでしょ。

安田

いまの経営陣じゃ無理ですか。

石塚

無理ですよねえ。

安田

北尾さんは外から優秀な人を連れてくるんですか。

石塚

当然でしょうね。自分のグループから送り込みますよ。

安田

北尾さんは何がしたいんですか?

石塚

新生銀行が持ってる資産のなかで、北尾さんが何に価値を感じているのか。ここが重要です。

安田

ほお。何でしょう。

石塚

やっぱり「お客様層」ですよね。個人も法人も。

安田

へぇ~。ちなみに、どういう戦略でメガバンクまで持っていくんですか。

石塚

地方銀行っていま行き詰まってるけど、要するに利益を生むのに「コストをかけすぎだ」ってのが、北尾さんの主張なんです。

安田

なるほど。

石塚

銀行はゴルフ場に似てて、1個しか持ってないと儲からないけど、100も200もゴルフ場を経営するといろんなものが共有できるから、どんどんコストが下がっていく。

安田

スケールメリットですね。

石塚

「地銀は1行1行チマチマやってるから、支店も人もたくさん抱えてダメなんだ。SBI住信ネット銀行を見てみろ。何人でやってると思ってるんだ」って発想だと思う。

安田

ということはリストラ必至ですね。

石塚

当然ですね。仕組み化して、人を減らして、センターなんかもぜんぶ集約して。

安田

まあ、そうですよね。

石塚

そうやって第4のメガバンクに育てていく腹づもりでしょうね。

安田

メガバンクって中小企業を相手にしてくれなくて。やっぱり地銀って中小企業にとっては大事な存在だと思うんですけど。

石塚

おっしゃる通り。

安田

メガバンク化していくと、もう中小企業は相手にしなくなるんでしょうか。

石塚

そんなことないと思います。そこがおいしいからこそ北尾さんはやってる。

安田

なるほど。あくまでも「中小向けのメガバンク」ってことですか。

石塚

この失われた30年のなか、地方で生き残る会社って優良企業しかないわけで。

安田

確かに。

石塚

そこに対してのサービス・商品なんていくらでも提案できる。

安田

そこが狙いですか。

石塚

口座も持っていて取引関係もあるのであれば「いい商品をどんどん売っていける」ってのが北尾さんの考えなんじゃないですか。

安田

地方の優良中小企業に何かを売りたい人って、山ほどいますからね。

石塚

おっしゃる通り。それを日本全国で束ねられるって、ものすごい財産ですよ。

安田

でも新生銀行にすべての地銀がついてくるとは限らないですよね。「うちは独自路線でいく」みたいな地銀も出てくるでしょ?

石塚

「やれるもんならやってみろ」って感じでしょうね。最後は必ず大きいほうが勝ちますから。

安田

なるほど。

石塚

北尾さんらしい面白い構想ですよ。手に入れる投資コストも安いし。

安田

安いんですか?

石塚

だって新生銀行を一からつくろうなんて、無理な話じゃないですか。

安田

確かに。

石塚

「こんなんで買えるなら安いもんだ」って、たぶん北尾さんは大笑いしてると思う。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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