創業社長の引き際

人類の中には余人を持って代え難い偉人が存在する。だがその数はとても少ない。そして終盤に致命的な誤判断を下した偉人も多い。偉人といえども人間である。加齢には勝てないし、慣れや驕りによって判断力は鈍っていく。

ましてや経営者の多くは普通の人間だ。どんなに気を引き締めて、どれほど学んだとしても、必ず判断力は衰えていく。私はまだまだ大丈夫。その過信が高齢者の自動車事故を招く。会社経営も同じである。単にまだ事故を起こしていないだけ。まだ致命的な経営ミスを犯していないだけ。

すべての経営者はいずれ必ず致命的なミスを犯す。その前提で自らの引き際を考えておかなくてはならない。加齢と慣れ。そして驕り。驕りは自信と裏腹である。自信がないと経営判断はできない。だが時としてその自信が、失敗したことがないという実績が、致命的な判断ミスをもたらすのである。

同じ会社の代表をやり続けることのできる任期が、時代とともに短くなりつつある。今はとにかく変化のスピードが早い。過去の成功体験がそのまま判断ミスへとつながっていく。代表取締役の任期はせいぜい20年。普通の人なら10〜15年が限界ではないだろうか。

とくに創業社長はその辞めどきが難しい。自ら会社を起こし、自ら成功を収め、自ら組織を牽引してきた創業者は、自ら引き際を決めるしかない。他の誰も「そろそろ辞めてください」とは言えないからである。

あの賢い社長がなぜこんな失敗をしたのか。あの立派な社長がなぜこんな不祥事を起こしたのか。数え上げればキリがない判断ミスがあちこちで起こっている。それは対岸の火事ではない。明日は我が身と思いすべての経営者が備えるべきなのだ。

すべての経営者はいつか必ず判断を誤る。その前提で自らの任期を決めること。事故を起こしてから免許を返納したのでは遅い。まだ安全運転できるうちに引き際を決めなくてはならない。それには前もって決めておく以外に方法がない。何歳になったら免許を返納するのか。何年やったら代表を辞任するのか。それを決めておくのだ。

自分ほどではないにしても、信頼して現場を任せられる人に経営を引き継いでいく。オーナーとして見守っていく。まだまだやりたいことがあるのなら別の会社を作ればいい。問題は同じ会社、同じ事業、同じ環境の元で、代表をやり続けること。そのリスクは想像よりはるかに大きいのである。

 

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