さよなら採用ビジネス 第1回「人材の供給構造は完全に変化した」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

安田

リクルートから独立してからは、ずっと人材紹介事業をされていたんですよね。

石塚

はい、主に3つの事業です。有料職業紹介以外に、採用求人のコンサルティングと教育研修事業を行っていました。

安田

求人広告費を使わず、求職者を集めてこられたということですが、どのように探されていたんですか?

石塚

有料職業紹介業のほとんどが仲卸業なんですよ。魚に例えると、小売店や料理店は魚をどこから仕入れるかイメージしてみてください。市場なのか、海からなのか。人材紹介業界で海から100%直接仕入れをしているのは、リクルートとパーソルキャリアだけだと思います。その他の会社さんはデータベースサイトなどを活用しています。市場にプールされた転職希望者を仕入れて紹介する、という事業者がほとんどなのです。

安田

そうなんですか!

石塚

40代より若い人は、スカウトっていうとスカウトメールを打つことだと思っているんですよ。昔のスカウトといえば、ハンティング電話をかけることでしたよね。

安田

なるほど。現在のスカウトは釣り堀に糸をたらしているだけだと。

石塚

そうなんですよ。市場から仕入れる仲卸業なんです。でも私は独立するときに仲卸業はやらないと決めました。スケールはかなわなくても直接仕入れで頑張るぞと決めたんです。

安田

自分が海で取った魚だけを扱うということですね。どうやって人を集めていたんですか?

石塚

自分の人脈で7.8割。まあ今でいうリファラル採用というやつですね。あとは求人を受注してから探しに行きました。誰に会えばご紹介に繋がるかを考えて、人に会いに行きました。

安田

転職する予定がない人でも、直接会って口説くってことですか。

石塚

そうです。

安田

ヘッドハンティングに近いですね。

石塚

そうですね。このビジネスを成り立たせるためには2つの条件があります。まずは年収金額が高いこと。もうひとつは候補者さんが質的に優れていること。8年半で撤退しましたけど、それまではこの条件を満たしてきました。

安田

そうした長い間続けてきたノウハウ、ネットワークの蓄積があるなかで、紹介事業をやめようと思ったきっかけは何でしょうか?

石塚

一番のきっかけは、「人材の質を担保できない」と感じる出来事が立て続けに起こったことですね。時間も労力も割いたにも関わらず、質の担保ができない。象徴的な出来事としては40代の、それなりの分別があるであろうビジネスパーソンが、二人続けて入社直後に辞めてしまったのです。

安田

たまたま2件重なっただけでは?

石塚

うーん、そうかもしれませんが、「これは何かのサインだな」と思ったんです。経営者感覚ですかね、真剣に考えるきっかけになりました。

安田

なるほど。それらの出来事以外にも、日頃から感じる変化はありましたか?紹介する人の質が落ちてきたとか。

石塚

おっしゃるとおりですね。「この求人なら、この時期に決まるな」と、長年やっているとそういう感覚ってあるじゃないですか。しかしこの1年半は、その目算が崩れてきたんです。探せると思って受注しても探せない。

安田

優秀な人が少なくなって来たのですか?

石塚

一言でいうと、少なくなりました。

安田

いなくなったと?

石塚

はい。良い人に出会えない時間が増えたと思います。人材紹介の一番の肝は、まあまあ優秀な人をどれだけ揃えられるかということです。そういった方に出会える機会が減りました。

安田

紹介料を支払う価値がないと。

石塚

はい、ないですね。

安田

なんとなく私の肌感覚でいうと、昔だったら優秀な人は組織に所属し続ける人が多かったじゃないですか。それが今は変わり、転職をせずフリーランスや独立する方が増えて来たんじゃないかと。

石塚

35歳未満の若手は辞めないですね。転職を検討しない層がすごく増えている。優良な企業は社員を引き留めるために、あれこれ手を打っているのも事実ですね。そしておっしゃる通り、辞めるときに優秀な人は自分で事業を始めてしまう。ネットWEB系だと立ち上がりがすごく早いし、「お前がやるなら出資するよ」という人もたくさんいるのです。

安田

なるほど。組織の人員構成は、2:6:2と言われてるじゃないですか。2割の優秀な社員が収益をかせぐ。6はとんとん。残りは赤字社員。2割の優秀な人が独立すると、会社は成り立たたなくなりますね。

石塚

2:6:2はもう間違っています。今は1:0:9です。

安田

え!そうなんですか?

石塚

1割がものすごく優秀。真ん中がいない。どの事業部門もそう大差ありません。だから仕事は偏るんでしょうね。

安田

その1割の人は、なかなか辞めないのですか?

石塚

辞められたら大変なので、会社も色々なリテンションをかけますよね。先回りもしますよね。新規事業をやらないかと誘ったり、子会社をもたせたり。

安田

興味深いですね。

石塚

人が中途採用市場にどうやって出てくるのかというところで、供給構造が完全に変わってしまったんですよ。

次回は「ハローワークこそがブルーオーシャン」

 


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

 

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