原因はいつも後付け 第40回 「自由な商売、不自由な商売」

// 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第40回》自由な商売、不自由な商売

起業することの醍醐味の1つ。
それは、誰にも雇われず、自分の判断で自由に事業ができること。

起業する上での理念の大小はあれど、この自由度の高さに魅力を感じないで起業する人なんていないのではないでしょうか?

休日、勤務時間、報酬。
会社員だった頃は自分の判断で決められなかったこうした事が、全て自分の一存で決められる。だからこそ、多少の不安を抱えながらも独立を選ぶ人が一定数いるのでしょう。

でも、不思議なんですよね。
私もこんな自由を求めて起業したにも関わらず、期待していた自由を手にすることが出来なかったのです。

もしかしたら、当時の私と同じように「独立したはずなのに自由になれない」なんて言う違和感を感じている方、いらっしゃるのではないでしょうか?


事業を始めて、まだほとんど顧客と呼べるようなお客さんもいなかった頃。
そんな時期に応援してくれる数少ない顧客は、自分の事業にとって正に生命線。

どんなに数は少なくても、目の前の顧客の期待に応え続けることこそが成功へ向けた最短の道。当時はそう信じていました。

ただ、そんな思いで日々営業を続けた結果、お店の経営は思いもよらない状態になっていってしまったのです。それが「売上の大半を一部の顧客に依存している」という状態。

つまり、私の事業の命運を握っているのは一部の顧客ということ。

その結果、私は数少ない顧客に完全に依存している状態となり、顧客と対等な関係を維持することができなくなってしまったのです。

自由を手に入れるための起業だったはずが、気がつけば、雇用主が以前の会社から特定の顧客に変わっただけのような状態。

自由な商売を求めていたにも関わらず、不自由な商売を強いられるようになってしまった原因は何だったのか?

それは、売上の増やし方のミス。
顧客を増やすことで売上を増やすのではなく、数少ない顧客の来店頻度を上げることで売上を増やしてしまったこと。

同じ100万円の売上であっても、その売上を100人の顧客から売り上げたのか、10人の顧客から売り上げたのかで、顧客1人に対する依存度は大きく異なります。

自ら新しい顧客を増やそうとせずに、数少ない顧客からの売上を期待すること。
これではいくら独立したとは言え、結局収入を1つの会社から得ていた会社員時代と何ら変わらない訳です。

そしてこれは、飲食に限らず他の業種で独立した場合も同じでしょう。

「独立したけど、顧客の値引きに応じざるを得ない。」
「独立したけど、顧客の過密な納期に応えないと切られてしまう。」

このような関係はもはや主従の関係に他ならず、そこには独立する時に期待した自由な商売などありません。

独立して自由な商売を手に入れるために避けては通れない道。
それが、顧客を増やし、売上を分散させること。

私がいま書いている事は、誰でも分かりきった事だと思います。
ただ実際は、顧客を増やす努力よりも、今いる顧客の要求に無理して応える努力をすることで事業を続けてしまっている人は多いのではないでしょうか?

自由な商売は、起業すれば手に入るものではなく、集客を出来るようになって初めて手に入るもの。当時、私はこれを痛感しました。

一部の顧客への依存という結果を招いている原因は、顧客ではなく自分である以上、顧客の自社に対する考え方を変えさせようとするのではなく、自分の集客に対する考え方を変えること。

新しい顧客を増やし、売上を分散させることでしか顧客と対等な関係を維持するのは難しく、対等な関係を手に入れない限り、不自由な商売が自由な商売に変わることはないと思うのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

感想・著者への質問はこちらから