さよなら採用ビジネス 第44回「スマホは何を変えたのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第43回「プロファイルの極意」

 第44回「スマホは何を変えたのか」 


安田

求人媒体を売ってるのに「効果的な求人原稿」をつくれない人って、いるじゃないですか。

石塚

めちゃ多いですね。

安田

ちょっとシャレにならない気がするんですが。

石塚

採用・求人の基礎っていうのを、現場で経験してないからでしょうね。

安田

現場で経験してない?

石塚

はい。

安田

現場で求人広告をつくってるじゃないですか。

石塚

「求人広告をつくってる」というより「媒体を売ってる」と言うほうが正しい。

安田

媒体を売って「文章を流し込んでるだけ」ってことですか?

石塚

そう。かなりパターン化されて、システマティックに。

安田

「わが社は人間関係を大事にしてて、社風がいいです」って、笑顔の社員を載せとくみたいなパターン。

石塚

来た来た(笑)

安田

「ここは社風よさそうだな」と思って受ける人はまずいないと。

石塚

いまどき、そんな求職者まずいないですよね。

安田

なんでこんなに、かい離しちゃったんですかね。「出しとけばそこそこ応募者がくる」っていう時代の名残ですか?

石塚

それもあるでしょうけど。いちばんの理由は売れるからですよ。

安田

真剣に採用成功を考えてる営業マンも、いると思いますけど。

石塚

そりゃあいますよ。でも、そういう人がいちばんしんどい。

安田

どうしてですか?

石塚

だって、成功させられないじゃないですか。

安田

でも、売らなくちゃいけない。

石塚

そう。

安田

どうやったら成功させられるんですか。

石塚

やっぱり、採用・求人の基礎を学ぶしかないです。

安田

何がいちばん変化したんですか?

石塚

一言でいえば、求職者の情報リテラシーが「飛躍的に上がった」ということです。

安田

それはネットの影響で。

石塚

スマホの影響ですよ。もう生々しい情報を、知っちゃってるじゃないですか。

安田

生々しい情報?

石塚

現場のグチとか、やめた人の情報とか。真実かどうかは別としても、会社や仕事のリアルさって伝わるじゃないですか。

安田

今まではそうじゃなかったと。

石塚

昔は本当に、媒体上でしかその会社を知れなかったわけですよ。それ以上知るとなったら、その会社を直接見に行くしかなかった。

安田

なるほど。

石塚

今はスマホを通じて、いろんなサイト、いろんなSNSにアクセスできますから。

安田

だから情報リテラシーが高い。

石塚

格段に上がりましたよね。もうその一言だと思います。

安田

にもかかわらず、絵に描いたような「いいシーン」だけをパシャりと撮って載せてる。

石塚

はい。「何も言ってないに等しいじゃん、こんなの」みたいな。

安田

「表面的な求人だなあ」って思われてますよね?

石塚

言い方は悪いけど、新卒採用って、それで何とかなって来たんですよ。

安田

確かに。

石塚

でも今は新卒採ってもすぐに辞めてしまいますから。

安田
それもやっぱりスマホの影響ですか?
石塚

だって、情報を遮断できないですからね。

安田

そうですよね。ずっとSNSつながってますし。

石塚

入社初日からLINEでつながるじゃないですか。リアルの体感・体験が、すぐに情報共有される。

安田

新卒って、働いたことがないから扱いやすかったんですけどね。

石塚

少々理不尽でも「そうか、社会ってこんなにしんどいんだ」って勘違いしてくれましたから。

安田

今はそうもいかないですよ。

石塚

「え?お前の会社、それおかしいよ」ってすぐLINEがきますから。

安田

私、以前は「新卒がいい」って、ずっと言い続けてきたんですけど。

石塚

よく存じております(笑)

安田

今でも、よく相談受けるんですよ。「新卒いいって、聞いたんですけど」って。

石塚

10年遅いですよね(笑)

安田

はい。だから「やめといたほうがいいですよ」って言います。

石塚

説得力ありますねぇ。安田さんが言うと。

安田

昔は新卒で採っちゃえば、「育てやすい」とか「辞めにくい」っていう優位性があったんですけど。

石塚

今年なんてゴールデンウィーク10連休だったじゃないですか。

安田

はい。

石塚

連休明けに辞表続出だったかもしれませんよ。「一緒にやろうぜ」みたいな起業がスタートしたり。

安田

でも2年後、3年後に辞められるぐらいなら、早いほうがいいですよね。

石塚

3~5年ぐらいの間で辞めるのが、いちばん痛いと思いますよ。

安田

3年ぐらいで、仕事覚えて辞めちゃう人が多いみたいですね。

石塚

それだと、まったく投資が回収できないですね。

安田

そうなんですよ。せっかく育てて、これからって時。

石塚

恋愛じゃないけど「3年も引っ張って、この私の3年どうしてくれるの!」って。

安田

だから、石塚さんのオススメは3社目ってことなんですよね。

石塚

はい。3社目。それがいちばん理にかなってる。

安田

恋愛でも、ひとり目と結婚するって、なかなかないですもんね。

石塚

よっぽどご縁がないと。

安田

ところで石塚さんに、是非聞いておきたいことがあるんですけど。

石塚

何でしょう?

安田

採用の業者さん選ぶときに、「こういう担当者がいい」ってのはありますか?

石塚

ああ、ありますね。

安田

どういう人ですか?

石塚

ディテールの話に迫力がある人。

安田

ディテール?

石塚

「この人、本当に現場でさんざんやってきたんだ」っていうタイプ。

安田

どうやって見分けるんですか?

石塚

たとえば「何かわかりやすい事例ありませんか?」って聞いたときに、リアリティーが違うんですよ。

安田

なるほど。他には、ありますか?見分けるポイント。

石塚

「できる・できない」が、はっきりしてる人。

安田

できないって言ったら、売れなさそうですけど。

石塚

採用案件って「できる」「できない」「頑張ればできる」の3つしかないんですよ。

安田

なるほど。

石塚

で、ほとんどが「頑張ればできる」という案件。だから商品の限界をきちっと最初に説明してくれる人が望ましい。

安田

じゃあ「絶対こういうタイプにだけは発注しないほうがいい」って人、教えてもらえませんか?

石塚

商品パンフレットを理論的に説明する人。そういう人って力がないんですよ。

安田

「理論的に」っていうのは、どういう説明なんですか?

石塚

「メリットはこうです」とか「こういう流れになります」とか「データベースに何万人います」とか。それ、単なる商品説明じゃんっていう。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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