7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第68回「大企業の中のブルーオーシャン」
日立や三井物産で、辞めた社員をまた迎える「出戻り制度」ができたみたいです。
リクルートは一昔前から珍しくなくなりましたけどね。
でもいわゆる日本の大手って、あんまりそういうイメージがないんですけど。
おっしゃる通り。どちらかというと「脱藩者」「裏切り者」という扱いが強いです。
そうですよね。辞めた人を戻すっていうのは人材不足なんですか？
どこの層で考えるか、だと思うんですけど。35歳以下の比較的若手社員の層は基本的に出戻り歓迎じゃないですか。
歓迎ですか。それは安いから？
そのとおり。安いし、あと人手不足だから。基本的に出戻りOKっていうのは若年層の話じゃないですか。
とはいえ45歳以上がこれだけリストラされてる中で、わざわざ辞めてった人をまた採る必要があるのかなと思うんですけど。
実は45歳以上の幹部層でも出戻りはあります。
そうなんですか？
幹部層で出戻りする人は社長に物言う人なんですよ。社長に物が言える人で仕事ができる人。
へぇ。
いわゆる「うるさ型」。そういう人が勢い余って飛び出ちゃうんですよね。
で、また戻ってくると。
外に出て苦労されるわけですよ。やっぱり、なかなか自分の思うようにはいかない。
できる幹部でも会社を出ると簡単にはいかないですか？
難しいもので、優秀な人ってその会社だから優秀だったっていうことがかなりある。環境や社風が違うと力が発揮できなかったり。
なるほど。
あと規模が大きいレバレッジが利くビジネスでは優秀だけど、サイズが落ちちゃうとまったく力が発揮できないタイプも多い。こういう人は出戻ってくるケースが多いです。
戻ってうまくいくんですか？
何例も知ってますけど、案外これがうまく出戻るんですよ。
戻ると元のポジションが約束されるんですか？
いやいやそんなに甘くない。似たようなポジションだけどラインからは外れますね。
やっぱり外れますか。
まず最初は外されます、当然。
復帰して役員まで行くということもあり得るんですか？
実際にありましたね。
そうなんですか。
はい。すごく評判がいいです。やっぱり外で苦労したし、自分というものを客観視した4～5年があるから社長の気持ちもわかる。
なるほど。
全体俯瞰ができるようになって、外から見る経験があるからいいアイデアも出る。
じゃあ新規事業の立ち上げとか。
新規事業とまでは言わないけど、既存事業のリーチを広げていくポジションとか。
普通に考えたら、その会社しか知らないよりいいに決まってますよね。外でスキルアップした人を戻していくのは理にかなってる。
人によるでしょうけど。
どういう人材が重宝されるんですか？
これは現場層とマネジメント層に分けて考えないといけない。マネジメント層で出戻ることができるのは本当に一部の優秀な人だけです。
それはどうして？
大企業のマネジメント層は2種類あるんですよ。本当にマネジメントをしている人と、立て付けの肩書きだけの人と。
肩書きだけマネージャー？ってことは部下がいないってことですか？
おっしゃるとおり。マネジメントをさせてないわけです、会社として。
政治的な理由もあるから100％とは言えませんけど。まあ圧倒的に仕事ができない人が多いですね。
じゃあマネジメント層で出戻ってくる人は優秀だと。
でないと戻れません。
そうまでして戻したい理由って何ですか？
今って競合がどこから来るかわからない時代じゃないですか。
はい。
そうすると中しか知らない人間より、一度外で修羅場踏んでるほうが適任だったりするんですよ。
つまりそういう人に頼らないと、社内の人材だけでは対応できないってことですか？
おっしゃるとおりです。日本の大企業組織って多様性に乏しいんですよ。
多様性に乏しい？
似たような学歴で似たようなタイプばかり。人種もほぼ日本人で性別もほとんどが男性。つまり多様性がない。
ちなみに出戻りって増えてるんですか？
増えてきてますね。
そういう先輩を見てると若手の人も「1回出たほうがいいんじゃないか」って気になりますよね。
なってますね。そして若手が出るときに「スピンアウトして企業内ベンチャーはどうだ？」みたいな提案を大企業もするようになってます。
有能な人材であれば雇用形態にはこだわってないと。
そうです。
もう大手でさえそうなんですね。
優秀層を繋ぎ止めるためにいろんなポジションを考えてますよ。
なるほど。
東急ハンズ、スープストックトーキョー、ルネサンス。この3つの企業に共通することって何か分かりますか？
わかりません。
これ全て企業内ベンチャーでスタートした会社なんです。
え！そうなんですか。
東急ハンズは東急不動産の社内ベンチャー。スープストックトーキョーは三菱商事の社員だった遠山さんが、ルネサンスは大日本インキ工業の齋藤さんが社内で始めたんですよ。
一社員に出資したわけですか？三菱商事が。
そうです。100％三菱商事の子会社で始めたんです。
そんなこと許されるんですね、大手でも。
いまや東急ハンズもルネサンスも東証1部ですからね。
独立する人にはメリットあるんですか？
若いうちからどんどんチャレンジさせるし、資本金もドカンと出してくれるし。
確かに。いきなり資本金3億とか自分では出せませんからね。
しかも2~3年は口出しされないから事業が曲がらない。
そうなんですか？
はい。3年間ぐらいは誰からも口出しされず経営計画通りに進められる。しかもグルーブ会社の販路と本社の優秀人材を出向させて自由に使える。
おお！それって起業家にとってのブルーオーシャンかもしれませんね。
石塚毅
（いしづか たけし）
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
（やすだ よしお）
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。
