さよなら採用ビジネス 第67回「ATM統廃合と銀行の未来」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第66回『やりすぎない経営』

 第67回「ATM統廃合と銀行の未来」 


安田

銀行のATMの話なんですけど。

石塚

いよいよ統合されますね。

安田

はい。各行バラバラだったのがオールジャパンで共有する方向に動いてます。

石塚

ATMは結構コストがかかるんですよ。

安田

設置費もかかりますもんね。

石塚

設置もそうですし、維持費が月だいたい30万ぐらいかかるんですよ。

安田

1店舗で30万もかかるんですか?

石塚

はい。だから1人社員を置いてるようなもんですよ、そこに。

安田

でも手数料を取るじゃないですか。

石塚

もちろん。

安田

その収益も減るってことですよね?

石塚

今はネット銀行がすごく使いやすくて、手数料も安くて24時間送金もできる。コストと得られる利益を考えると「リアルなインフラは持たないほうがいい」という結論。

安田

なるほど。でもリアルなインフラということであれば店舗はどうなんですか?

石塚

店舗も同じです。

安田

どんどん減っていく?

石塚

いま駅前の「あれ?なんだったかな」って空き店舗、だいたい銀行ですよ。

安田

そうなんですか。

石塚

特に合併で近くに同じ銀行で2店舗あるとか。もう本当にどんどん閉めてますね。

安田

それは窓口業務を求められなくなったからですか?

石塚

おっしゃるとおりです。

安田

でも高齢者が増えてるじゃないですか。窓口ないと困らないんですかね。

石塚

信用金庫さんは2か月に1回、15日の年金支給日は「お祭りでもあるのか?」ってぐらい混んでますけど。それ以外はまったく。

安田

そうなんですか。

石塚

もう地域に1つあれば十分なんですよ。各銀行で持つ必要もないし「維持費も食うのでどんどんなくしたい」「店舗もATMも極力なくしたい」っていうのが本音。

安田

最終的にはどのぐらいまで減るんですかね。

石塚

10分の1ぐらいじゃないですか。

安田

10分の1!そんなに。

石塚

はい。正直、今回の三井住友とUFJのATM統合も30年ぐらい遅きに失した感じ。

安田

そうなんですか。

石塚

だって駅前にどっちか1つあれば十分でしょ?

安田

まあユーザーからしたらそうでしょうね。手数料が同じなら。

石塚

だいたいお金を引き出したり、お金を預けに行ったりなんていうこと自体が、ほとんどいらなくなってくる。もう、そういう時代なんですよ。

安田

とはいえ銀行って女性採用もしてるじゃないですか。女性って、やっぱり店舗で働いてる人が多い気がするんですけど。

石塚

安田さんはメガバンクの窓口にいる人、あの方たち正社員だと思ってます?

安田

違うんですか?

石塚

全員、非正規です。

安田

そうなんですか!

石塚

かつてのOGがほとんどです。

安田

じゃあ店舗を閉鎖したら、もう契約ストップ?

石塚

終わりです。

安田

じゃあ店舗がなくなったら、残るのは顧客回りをするいわゆる銀行マンだけ?

石塚

それも自動化が進むので。たぶん銀行はどんどん省人化していきますよ。

安田
じゃあどうやって稼ぐんですか?
石塚

2年前、某メガバンクに私の友人が転身したんですけど。

安田

ほう。

石塚

ネット業界の優秀人材ばかり集めてる部署があるそうです。社長直轄で。

安田

どんな仕事をする部署ですか?

石塚

「店舗を最低でも半分にしろ」「ネットで儲けられる金融サービスを山ほど考えろ」というミッション。それだけをやる部隊があるんですよ。

安田

これまでの銀行が根底から変わるイメージですね。

石塚

とにかく銀行はリアルなお金のやり取りを最小限にしたい、人も絞りたい。

安田

じゃあ銀行もキャッシュレスにしたいってことですか?

石塚

そのとおりです。ただ今さら銀行が電子マネーやっても時すでに遅し。どこかに乗るしかない。

安田

どこに乗るんですか?

石塚

本当は「Suica」とか「PASMO」がいちばんいいんですけどね。普及してるから。

安田

やっぱりそうなりますか。

石塚

いや分かりません。JRが無能だから。200万台ぐらいタダでばらまけば一瞬で勝負は決まるんですけどね。

安田

何をばら撒くんですか?

石塚

Suicaで決済するための端末ですね。あれ、設置するだけで30万くらいかかるんで。

安田

えっ!そんなにかかるんですか?

石塚

そうなんですよ。

安田

あの「ピッ」っとやるやつ?

石塚

はい。だから個人タクシーは載せないんですよ。金かかるから。

安田

なるほど。

石塚

Suicaって加盟店にコストを求めるわけです。PayPayは加盟金落とさないかわりに端末はほぼタダ。

安田

タダなんですか?

石塚

今はとにかく「どうやって一気に面を取るか」という戦い。キャッシュレス決済の陣取り合戦。あれ見てると面白いですよ。

安田

その陣取り合戦に銀行は乗り遅れてるってことですよね?

石塚

おっしゃる通り。キャッシュレス決済には完全に乗り遅れてます。

安田

それなのにATMまでなくしちゃっていいんですか?数少ない収入源なのに。

石塚

もう収入源にならないですから。

安田

それはどうして?

石塚

自分の口座からお金を出すのに手数料なんて、本来おかしいんですよ。電子化されることによってどんどんなくなっていく。

安田

なくなっていきますか?

石塚

実際どんどんなくなってます。

安田

それって結構大きな収入源だったんじゃないんですか?銀行の。

石塚

そのとおり。銀行は伝統的な収益源を、もうあとわずかで失くしてしまうってことです。

安田

新しい収益源をつくるしかないと。

石塚

そうなんですけど、そこがまだ見えてない。だからコストを絞って、まずは損益分岐点を下げにかかってる。

安田

つまりはATMの統廃合もリストラの一環だと。

石塚

おっしゃるとおり。超大規模なリストラのほんの一端ですね。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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