泉一也の『日本人の取扱説明書』第87回「貧血の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第87回「貧血の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

中・高の全校朝礼の時、よく貧血で倒れる間近まで我慢して立っていた。あの苦しみは体験した人でないとわからない。冷や汗が出てきて、吐き氣がする。目の前がだんだん黒くなってくる。もうちょいすれば、朝礼が終わるとギリギリまで我慢した。

『みんなも我慢してんのに、ちょっとぐらい我慢もできへんのか。だらしない、弱い、カッコ悪い。その場に座ると目立って周りからそういう目でみられるで』そんな心の声に強く励まされて、我慢が続く。

小学校の全校朝礼では貧血はなかった。体質が変わったのだろうか。背が伸びて頭に血液が届かないのか。おかしい、運動部にいるので持久力はついているはずである。何が変わったのか、当時はわからなかったが今ならわかる。

小学生の時、校長先生に言った。「校長先生、全校朝礼の先生の話長すぎてしんどいわ。友達も貧血でしんどそうやから短くしてえよ」。中高になるとその言葉を押し殺していた。これが貧血の原因である。

同じことが社会人になってからも起こった。通勤電車での貧血である。ある時期から急に貧血がひどくなり、途中の駅で降りることもしばしあった。転職を決めたとたん、貧血はなくなった。

自分の心に素直に生きている時は、体調が良く貧血は起こらない。自分の心を押し殺して生きている時は、体調がすぐれず貧血気味である。貧血の感覚がわかるので、貧血状態の人はすぐに目に付く。

貧血状態の人が多い職場がある。そんな職場は、中高の全校朝礼のような朝礼や会議をしている。そこではほとんどの人が呼吸は浅く青白い顔をしている。朝の出勤も辛そうだ。表情には出さないが、心の中では励ましの言葉を自分にかけている。例の奴だ。

『みんなも我慢してんのに、ちょっとぐらい我慢もできへんのか。だらしない、弱い、カッコ悪い』

この我慢に使用しているエネルギーは大きく、さらに貧血で頭に血が通ってないので知恵も出てこない。日本の職場の生産性を大きく失わせているのは、まさしく「例の奴」である。

日本は周りの目に敏感な「恥の文化」を持ち、さらに「我慢が美徳」という2つの文化を持ち合わせている。これが例の奴を生み出しているのだ。例の奴の正体を暴き、退散させていくと、自分の素直な声が出てきて、その声で職場の仲間とコミュニケーションができるようになる。その氣づきとコミュニケーションの場づくりをして貧血を治すので、場活をすると生産性が上がるのだが、それは当然であろう。

生産性を上げるために例の奴を放置して、働き方改革をしても意味がないというか、余計に例の奴を蔓延させてしまう。「我慢して働き方改革に従おう・・」

日本にいる限り知らないうちに「例の奴」に支配される可能性が高い。支配からの卒業をするには、恥の文化と我慢が美徳文化でない外国に飛び出すか、例の奴を知恵と勇氣を携えて仲間と退治するかである。

レイノヤツ・バスターズは2020年も忙しくなりそうだ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

著者ページへ

 

感想・著者への質問はこちらから