さよなら採用ビジネス 第53回「生業と家業と企業」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第52回『銘柄を背負い続ける人たち』

 第53回「生業と家業と企業」 


安田

生業(なりわい)と家業(かぎょう)は違うって、石塚さん言ってましたよね。

石塚

はい、明確に違いますね。それが分かっていない人が多すぎます。

安田

「生業は個人事業」で「家業は家族でやってる事業」というイメージですけど。

石塚

それ間違いです。多くの人がそう勘違いしています。

安田

教えていただけますか。その境目を。

石塚

まず事業は三つの機能に分けることができます。戦略を考える部分と、戦術を練る部分と、実際に戦闘行為を行う部分。

安田

よく言われる「戦略・戦術・戦闘」ですよね。

石塚

そうです。その3つを全部1人でやってるのが生業(なりわい)。

安田

フリーランスみたいなものですか?

石塚

安田さんなんて、まさにそうですよね。自分で戦略考えて、相談ツアーという集客戦術を練って、営業という戦闘行為もやるわけですよね。

安田

はい。全部自分でやりますね。

石塚

私もそうなんですけど、戦略・戦術・戦闘を全部1人でやるのが生業なわけですよ。

安田

でもフリーランスでも戦闘しかやってない人もいますよね。なかなか食っていけないですけど。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

これは生業とは言わない?

石塚

生業ではない。単なる下請けですね。

安田

なるほど。生業というためには、その3つは自分でやらないといけないと。

石塚

そのとおりです。老舗と言われるような個人店は生業が多いですね。

安田

じゃあ、それを「数人でやってる」という状態が家業なわけですか?

石塚

規模はあまり関係ないです。業種によって売上規模・人数規模は変わりますから。

安田

じゃあ、何をもって家業となるんですか?

石塚

役割分担です。戦略を社長が考えて、戦術と戦闘を社員がやる会社。それが家業。

安田

ということは、ほとんどの中小企業は家業ってことですね。

石塚

はい。圧倒的に家業が多いです。企業とは言えない。

安田

「うちは中堅だ」とか言ってるけど、社長が1人で戦略考えてるうちは家業だと。

石塚

そうです。

安田

社長が考えた戦略のもとに「じゃあ、こういうDMをつくりましょう」みたいなのが戦術ですよね。

石塚

そうです。で、そのDMをもとに商談したり接客したりするのが戦闘。

安田

じゃあ企業と名乗るためには、その3つが分かれてないといけないと。

石塚

そうです。3つが全部分かれていて、個人ではなくレイヤーになってること。

安田

レイヤーですか。

石塚

「ここが戦略を考えるレイヤー」「ここが戦術を練るレイヤー」「ここが戦闘行為を行うレイヤー」と分かれている。だから会議も別々に行う。

安田

社長個人が戦略を考えるのではなく、組織として戦略を立案する部署が必要だと。

石塚

安田さんも、かつては企業を率いてたじゃないですか。

安田

企業と言えるんですかね。

石塚

当時のワイキューブは、安田さんが戦略を考えてたんですか?

安田

役員数人で全体の戦略を考えてたイメージですね。

石塚

だったら立派な企業ですよ。

安田

大企業の場合って、誰が戦略を考えるんですか?

石塚

部門のトップの役員ですね。

安田

じゃあ、各部門に戦略を考えられる人がいるわけですか?

石塚

各部門のトップにいる役員と社長とで戦略を考える。

安田
大企業のトップって、経団連とかパーティーにばかり出てるイメージですけど。
石塚

日本経団連や経済同友会に専任してもらうのは、会長の仕事ですね。

安田

なるほど。でもひとつ不思議なことがあるんですけど。

石塚

何でしょう?

安田

大企業のサラリーマンって「余計なことせず、他の部署に口出さず、与えられた任務を粛々とこなしていく」って感じなんですけど。

石塚

その通りですよ。

安田

そういう人たちが役員になったからといって、戦略なんて立てられるんですか?

石塚

どう思います?

安田

分かりません。実際どうなんですか?大企業の役員って。

石塚

優秀ですよ。

安田

たとえば私が戦略を聞いたら「すげえなこの人」ってなりますか?

石塚

僕の言ってる「優秀」ってのは、業務処理能力、事務処理能力、あと社内調整能力。ここが優秀じゃないと上がれないから。

安田

でもそれって戦略立案能力と関係ないじゃないですか。

石塚

そのとおり。せいぜい戦術レベルの話ですよね。

安田

ですよね。

石塚

だから、いわゆる「次をどうするか」ってことになると、難しいんじゃないですかね。

安田

でも戦略を立てるってことは、未来を考えるってことじゃないですか。

石塚

本来はそうですね。

安田

じゃあ戦略を立てる部署はあるけど、実際には考えられないと。

石塚

だからプロを呼んでくるわけです。

安田

プロっていうのは有名コンサルタントとか?

石塚

戦略ファームを呼んできて絵を描かせるんですよ。

安田

それで上手くいくんですか?

石塚

いくこともあります。ポシャったプロジェクトも数知れずありますけど。

安田

そんなので大丈夫なんですかね。

石塚

何十億でプロジェクトを取って、それがきっかけで「あの会社はダメになった」みたいなのは山ほどあります。

安田

いっその事「戦略に長けた社長」を外部から採ってきたらどうなんですか?

石塚

日本企業は絶対しませんね。序列を崩すんで。

安田

序列ですか。

石塚

はい。格と序列と上下関係。これを崩すものは異分子として全力で排除するんで。唯一あるとしたら資本が変わる時だけ。

安田

これまでの時代なら、だいたい戦略が決まってたじゃないですか。「拠点を拡大する」とか「燃費のいい車をつくる」とか。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

それに基づいた戦術を一生懸命やれば、上手くいった時代だと思うんですけど。いまはそうじゃないですよ。

石塚

ホントにその通りなんですよ。学校で習って対処できる戦略だったんですよ、いままでは。

安田

常識的に考えて「次はこれだな」ってことをやっておけばよかったと。

石塚

そう。いろんなフレームワークに当てはめて結論を出す。頭のいい人が好きな、公式を覚えて答えを出すパターン。

安田

昔はみんな日経新聞を読んでましたもんね。「次はこれだぞ」って。

石塚

でも今は予想がつかない変化が起こって、予期しないところから競合が現れますから。

安田

そうですよね。戦略なき戦術だけで大企業は大丈夫なんですか?

石塚

グループ間取引だけで食ってける会社がいっぱいあるんですよ。大企業って。

安田

グループ間取引?

石塚

わざわざ新しいマーケットを創造しなくても、固定した関係の維持だけで何とかなっちゃったりするんです。

安田

でもずっとは無理でしょ?

石塚

もちろん無理です。でもサラリーマン社長って、自分の任期のことしか考えてませんから。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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