7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第53回「生業と家業と企業」
生業(なりわい)と家業(かぎょう)は違うって、石塚さん言ってましたよね。
はい、明確に違いますね。それが分かっていない人が多すぎます。
「生業は個人事業」で「家業は家族でやってる事業」というイメージですけど。
それ間違いです。多くの人がそう勘違いしています。
教えていただけますか。その境目を。
まず事業は三つの機能に分けることができます。戦略を考える部分と、戦術を練る部分と、実際に戦闘行為を行う部分。
よく言われる「戦略・戦術・戦闘」ですよね。
そうです。その3つを全部1人でやってるのが生業(なりわい)。
フリーランスみたいなものですか?
安田さんなんて、まさにそうですよね。自分で戦略考えて、相談ツアーという集客戦術を練って、営業という戦闘行為もやるわけですよね。
はい。全部自分でやりますね。
私もそうなんですけど、戦略・戦術・戦闘を全部1人でやるのが生業なわけですよ。
でもフリーランスでも戦闘しかやってない人もいますよね。なかなか食っていけないですけど。
おっしゃるとおり。
これは生業とは言わない?
生業ではない。単なる下請けですね。
なるほど。生業というためには、その3つは自分でやらないといけないと。
そのとおりです。老舗と言われるような個人店は生業が多いですね。
じゃあ、それを「数人でやってる」という状態が家業なわけですか?
規模はあまり関係ないです。業種によって売上規模・人数規模は変わりますから。
じゃあ、何をもって家業となるんですか?
役割分担です。戦略を社長が考えて、戦術と戦闘を社員がやる会社。それが家業。
ということは、ほとんどの中小企業は家業ってことですね。
はい。圧倒的に家業が多いです。企業とは言えない。
「うちは中堅だ」とか言ってるけど、社長が1人で戦略考えてるうちは家業だと。
そうです。
社長が考えた戦略のもとに「じゃあ、こういうDMをつくりましょう」みたいなのが戦術ですよね。
そうです。で、そのDMをもとに商談したり接客したりするのが戦闘。
じゃあ企業と名乗るためには、その3つが分かれてないといけないと。
そうです。3つが全部分かれていて、個人ではなくレイヤーになってること。
レイヤーですか。
「ここが戦略を考えるレイヤー」「ここが戦術を練るレイヤー」「ここが戦闘行為を行うレイヤー」と分かれている。だから会議も別々に行う。
社長個人が戦略を考えるのではなく、組織として戦略を立案する部署が必要だと。
安田さんも、かつては企業を率いてたじゃないですか。
企業と言えるんですかね。
当時のワイキューブは、安田さんが戦略を考えてたんですか?
役員数人で全体の戦略を考えてたイメージですね。
だったら立派な企業ですよ。
大企業の場合って、誰が戦略を考えるんですか?
部門のトップの役員ですね。
じゃあ、各部門に戦略を考えられる人がいるわけですか?
各部門のトップにいる役員と社長とで戦略を考える。
日本経団連や経済同友会に専任してもらうのは、会長の仕事ですね。
なるほど。でもひとつ不思議なことがあるんですけど。
何でしょう?
大企業のサラリーマンって「余計なことせず、他の部署に口出さず、与えられた任務を粛々とこなしていく」って感じなんですけど。
その通りですよ。
そういう人たちが役員になったからといって、戦略なんて立てられるんですか?
どう思います?
分かりません。実際どうなんですか?大企業の役員って。
優秀ですよ。
たとえば私が戦略を聞いたら「すげえなこの人」ってなりますか?
僕の言ってる「優秀」ってのは、業務処理能力、事務処理能力、あと社内調整能力。ここが優秀じゃないと上がれないから。
でもそれって戦略立案能力と関係ないじゃないですか。
そのとおり。せいぜい戦術レベルの話ですよね。
ですよね。
だから、いわゆる「次をどうするか」ってことになると、難しいんじゃないですかね。
でも戦略を立てるってことは、未来を考えるってことじゃないですか。
本来はそうですね。
じゃあ戦略を立てる部署はあるけど、実際には考えられないと。
だからプロを呼んでくるわけです。
プロっていうのは有名コンサルタントとか?
戦略ファームを呼んできて絵を描かせるんですよ。
それで上手くいくんですか?
いくこともあります。ポシャったプロジェクトも数知れずありますけど。
そんなので大丈夫なんですかね。
何十億でプロジェクトを取って、それがきっかけで「あの会社はダメになった」みたいなのは山ほどあります。
いっその事「戦略に長けた社長」を外部から採ってきたらどうなんですか?
日本企業は絶対しませんね。序列を崩すんで。
序列ですか。
はい。格と序列と上下関係。これを崩すものは異分子として全力で排除するんで。唯一あるとしたら資本が変わる時だけ。
これまでの時代なら、だいたい戦略が決まってたじゃないですか。「拠点を拡大する」とか「燃費のいい車をつくる」とか。
おっしゃるとおり。
それに基づいた戦術を一生懸命やれば、上手くいった時代だと思うんですけど。いまはそうじゃないですよ。
ホントにその通りなんですよ。学校で習って対処できる戦略だったんですよ、いままでは。
常識的に考えて「次はこれだな」ってことをやっておけばよかったと。
そう。いろんなフレームワークに当てはめて結論を出す。頭のいい人が好きな、公式を覚えて答えを出すパターン。
昔はみんな日経新聞を読んでましたもんね。「次はこれだぞ」って。
でも今は予想がつかない変化が起こって、予期しないところから競合が現れますから。
そうですよね。戦略なき戦術だけで大企業は大丈夫なんですか?
グループ間取引だけで食ってける会社がいっぱいあるんですよ。大企業って。
グループ間取引?
わざわざ新しいマーケットを創造しなくても、固定した関係の維持だけで何とかなっちゃったりするんです。
でもずっとは無理でしょ?
もちろん無理です。でもサラリーマン社長って、自分の任期のことしか考えてませんから。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。