7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第70回「ドレスコードが死語になる日」
サマンサタバサを紳士服のコナカが買収したんですけど。ご存知ですか?
はい。ネットニュースで見ました。
サマンサタバサって一時期、若い女性の間ですごく流行ってたみたいです。でも最近はちょっと業績が良くないそうで。
あの業界は流行り廃りがすごいですから。
みたいですね。でもコナカっていうと、スーツを大量に安く売るイメージしかないんですけど。相乗効果あるんですかね?
もちろんそこは考えてるでしょうけど。でもそれ以上に「打つ手がない」ってことじゃないですか。
打つ手がない?
安田さん、スーツ最後にいつ着ましたか?
仕事で着たのは会社が潰れたときなので、もう8年前ですかね。3〜4年前に結婚式で一度着ましたけど。
普段着てないでしょ?
着てないですね。嫌いなので。
数えてみたんですけど、僕でさえ今年10回着てないんですよ。
石塚さんはスーツ着てそうなイメージですけど。
でしょ?でも実際は子どもの卒業式・入学式で2回。あとはどうしても着なきゃいけない堅いお客さんの時。全部で10回いってないです。
なんと。
要するに、みんなスーツ着なくなったじゃないですか。
確かに。着なくなりましたね。
1年中キチっとスーツ着てるのなんて、カタカナ生保の営業ぐらいじゃないですか。
そもそも何のためにスーツ着るかっていうと、相手に不快感がないようにしてるだけですからね。
だけど今はスーツ着てようが着てまいが、お客さんのほうが気にしなくなったでしょ。
はい。むしろ逆効果ですね。暑い夏にスーツ着てネクタイ締めて、汗ダラダラで来られても困るっていう。
おっしゃる通り。
真夏にスーツを着続けてる業界とか逆に怪しいです。「なんてブラックな会社なんだ」って思います。
そう。だからどんどん着なくなるんです。
まあそうなりますよね。
だからマーケットがすごい勢いで縮まってる。AOKIやコナカにしたら本業自体の存続が難しいわけですよ。
なるほど。
とは言え、次の事業をゼロイチでやる人材も時間もない。だったらもう買収しかないわけです。
じゃあ相乗効果というよりは、事業をどんどん買っていくしかないってことですか?
はい。業態転換として買収してる。
そんな簡単にいきますか?
もちろんリスクはありますけど。やらざるを得ないんでしょうね。
この先どの程度“スーツを着ないムード”って広がっていくんですか?
いやあ、もう、とどまるところを知らない感じじゃないですか。
もはや「ノーネクタイ」は普通ですもんね。あのお堅い銀行でさえも「本部はスーツ着なくていいよ」みたいな。
そうです。環境とかエコとかも後押ししてますから。「夏は暑くなっているから、ドレスコードを一気に緩めましょう」と。もう、とどまるところを知らない。
たとえば就職活動の面接とかでもスーツ着なくなりますか?
そこが一番遅いかもしれないですね。要するに就活や行事ごとでもなければスーツを着なくなるってことです。まさに「よそ行きの服」になるんじゃないですか。
確かに仕事では着なくなりましたね。結婚式とか葬式の時だけ。
さすがにお葬式では、ちょっと罰当たりな感じするじゃないですか。
他人の葬式だったらそうですよね。自分の両親のときはスーツ着なかったです。
安田さんみたいな人が増えていくんじゃないですか。
前回の対談でも話しましたけど、これからフリーランス化・個人事業主化する人がどんどん増えます。彼らはスーツなんか着なくなる。
でも大企業さんなんかは、頑なに守っていきそうに見えるんですけど。
業種によりますね。むしろ最近は、大企業に行くとスーツ着てる人なんて誰もいないですよ。
え、そうなんですか!?
はい。もう、クールビズ一色(笑)ほとんどジャケパンですよ。
大手でもジャケパンが普通ですか。
この間、某商社に行った時は、商社マンがサンダルみたいなの履いてて。
サンダル!?
へぇ~って思いましたけど、本人は至って普通でしたね。むしろ業者のほうが気を遣って着てますよね。
そうですよね。
だって新橋でさえ、スーツ着てる人少ないじゃないですか。
いや、新橋はまだまだ多いと思いますよ。サラリーマンの街ですから。
安田さんから見ると多いかもしれないけど。僕は「すごく減ったな」って感じます。
そうですか。
ええ。だって外回りする信金マンなんて、上着も着なければ長袖も着てないですよ。半袖・ノーネクタイでバイク乗ってますからね。
今や就職活動のために買ってる人がメインですか?
就職活動用に買って「あとはもう着ない」みたいな。
じゃあスーツ業界はもう完全にシュリンクしていくと。
大量生産的なところは難しいでしょうね。着物と同じ運命をたどると思います。
着物と同じ運命?
はい。
趣味で好きな人だけが着るみたいな。
そうです。好きな人だけが着続けるんです。あとは祭事とかフォーマルな時だけ。年間多くて10回着ればいいんじゃないかな。
政治家はどうなんでしょう。
政治家でさえ夏はみんなネクタイしてないじゃないですか。クールビズ推奨ってことで。
でもコナカや洋服の青山って東証1部上場企業ですよ。すごい社員数抱えてると思うんですけど。やっぱりリストラスですか?
おっしゃるとおり。あの業態は現状維持では厳しいと思います。なくなりはしないけど相当シュリンクする。
どのぐらいまで減るんですかね?いわゆるビジネスマンのスーツ着用率って。
10分の1。
10分の1ですか!じゃあ逆に着てる人が珍しいっていう。
そう。「何か今日あるの?」みたいな(笑)
そこまでいきますか。
もう「ドレスコード」という言葉が死語になるかもしれません。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。