変と不変の取説 第54回「恥をなくした恥の国」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第54回「恥をなくした恥の国」

前回、第53回は「イギリスと日本の境目」

安田

アメリカには懲役300年みたいな刑がありますよね。

ありますね。

安田

どう考えても、どんなに頑張っても「牢屋の中で死ぬだろう」みたいな。

そうですね。

安田

それに比べて「日本は刑が軽すぎる」って、大きな犯罪が起こるたびに言われます。

懲役300年とかは聞いたことないですね。

安田

まあ長けりゃいいとは思わないですけど。でも人を殺して15年で出てくるって、「そんなので許されていいのか」とは思っちゃいます。。

ですよね。

安田

そもそも日本って、終身刑っていいながら終身じゃない。

無期懲役ですよね。

安田

なぜ日本には終身刑がないんですか?どう考えても「もう出さないほうがいい」って人もいると思うんですけど。

死刑制度が受け入れられているからじゃないですか。

安田

でも死刑になる人って「2人以上殺してる」とか、結構ハードルが高いですよ。

そうですね。極刑はあるけど、その手前までは軽いみたいな。

安田

基本的に軽いですよね。「この人、こんなに早く出していいのか?」みたいな。結局また再犯したり、前科のある人が重大事件を起こしたり。

日本ってリベンジの機会が少ないので。1回失敗して刑罰を終えた人に「この人を再チャレンジさせてあげよう。そのために支援しよう」という環境があんまりない。

安田

それが問題だと?

1度でも犯罪をした人はすごく生きにくいし、それも含めて刑罰みたいになってる。

安田

刑罰を終えた後の「生きにくさ」も「刑のうちに入ってる」ということですか。

実際にそうなってますよね。「1回前科ついたら傷もんだよ」みたいな。

安田

たしかに生きにくい世の中にはなりますけど。でも、それって社会にとっていいことあるんですか?

どうなんでしょうね。

安田

「こんな人とは一緒にいれない!」って人だったら牢屋に入れといたほうがいいし、「やり直しさせたほうがいい」って人だったら受け入れたほうがいい。

私もそう思います。

安田

犯罪にもよりますけど。重大な犯罪に対する刑罰は確かに軽すぎる気がします。

昔は重大犯罪が少なかったので、そういうものに対する危機感が少ないのかもしれないです。

安田

そうなんですか?

先日、小笠原の母島の人と話をしたんですけど。母島ではこの50年間殺人事件は1件もないらしいんですよ。

安田

1件もないんですか?

1件もないそうです。やっぱり日本って平和なんですよ。世界的に見ても重大犯罪がめちゃ少ない。

安田

だから刑が軽いと?

なので、そういうものに対する免疫がないというか。危機感がないのかもしれません。

安田

何をもって重大かっていうのもあるんでしょうけど。たとえば幼児犯罪とか、海外だったら30年ぐらい平気で牢屋に入れられますよ。

そうですね。

安田

でも日本だったら、すぐ出てきちゃうじゃないですか。隠れた重大な犯罪って、日本にもいっぱいありそうな気がしますけど。

そういう意味では平和ボケしてるんでしょうね。

安田

刑罰って、それこそアメリカの占領軍の影響で「欧米にならって」みたいにならなかったんですか?

これからなるかもしれません。

安田

昔の日本はどうだったんですか?もっと厳しかったような気がするんですけど。

お奉行さんの裁量で決めてましたね。百叩きとか。町中みんなのさらし者にするとか。

安田

そうですよね。犯罪者は入れ墨を入れられたり、島に流されたり。

基本的にさらし者ですからね。拷問とかもすごかったです。

安田

やっぱりそうですよね。再犯防止のためには抑止力が必要な気もします。

でも鬼平犯科帳もそうですけど、犯罪者に対して厳しい制裁をしながら更生プログラムも用意してました。

安田

そうなんですか?

はい。「ここで開拓作業しろ」とか「畑つくれ」とか。そういう人たちを集めて、ちゃんと世の中のために生きさせる仕組みがあった。

安田

今も一応そういう仕組みはありますけどね。

そういう人物がいないじゃないですか。

安田

鬼平犯科帳みたいな人?

大岡越前とか鬼平犯科帳みたいなのがいなくて、コピーしてきた法律を運用してるだけ。魂がない。

安田

日本社会って犯罪者にすごく厳しいですよね。受け入れないし、白い目で見られるし。

はい。前科のある人にとっては厳しい社会ですよ。

安田

民意を反映して刑罰を決めるんだったら、もっと重くなる気がするんですけど。ネットでも街頭インタビューでも「軽すぎる」ってみんな言ってる。

そうですね。

安田

政治家にしたって、その声に応えたほうが選挙で有利になる。なぜそうならないのかすごく不思議です。

罰を与える側の責任って重いんですよ。えん罪になるかもしれないし。

安田

まあそうですね。

裁決する側の責任を軽くしようと思ったら、刑も軽くなる。

安田

だからなんですか?刑が軽いのは。

だから前例を踏襲する。厳しくできる人物もいないんですよ。法律が主になっていて精神がない。

安田

じゃあ欧米にはそういう人物がいるんですか?

欧米はキリスト教とか宗教の精神で刑罰が決まるんですよ。

安田

なるほど。

日本って「恥の文化」で西洋は「罪の文化」って言われてるので。善悪の罪っていうのはキリスト教ではかなりはっきりしてる。

安田

だから厳しいんですか?

宗教の精神に合致する部分は、厳しくできるんだと思います。

安田

「悪いことをしたら罰せられるよ」みたいな?

そうです。日本は恥の文化なので、刑になったらそのあと生きていくのがつらい。そういうのを見込んで軽くしてる。

安田

罪を償って出所してきた人でも「一生背負っていけ」って感じですもんね。

はい。欧米だったら結構オープンなんじゃないですか。「俺、1回刑務所入ったから」「あ、そうなん?」みたいな。

安田

でも性犯罪者はICチップみたいなのを埋め込まれますけど。

そうですね。この地域に「こういう人がいます」みたいなことも周知されるし。

安田

近くに来たらアラートが鳴るみたいな。日本も犯罪によってはあのぐらいやってもいいと思うんですけど。

日本もやったほうがいいんじゃないですか。

安田

そうですよね。ちょっとした違反も許さない真面目な日本人の性格からすると、海外より厳しくてもいいような気がしますけど。

日本は恥の文化なのに「恥」という概念が軽くなってしまったんですよ。それがいちばんの問題だと思います。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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