7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第84回「温情はどこまで続くのか」
大塚家具の業績が「もう建て直し不可能」ってところで、ヤマダ電機が現れました。
はい。ギリギリでしたね。
社長続投ってことになったんですけど。あれは「山田会長の温情だ」って言われてまして。どう思います?
そのとおりだと思います。
温情でお金を出して、続投もさせたってことですか?
そのとおり。
へぇ。ヤマダ電機ってもっとドライなイメージですけど。
山田家って不審な死に方が何回もあるんですよ。お身内の方が。
そうなんですか?
はい。会長は似たような年齢の娘さんも亡くしてるんですよ。あと、「この人を後継者に」っていう人を事故で亡くしたりとか。
それが久美子社長と被ったと。
久しぶりにテレビで山田会長を観ましたけど。老けたなあって。たぶん亡くなった娘さんにどっか重なるんじゃないですか。
私はヤマダ電機さんとは直接仕事したことないんですけど。取引ある人に聞いたら相当シビアな会社みたいですよ。下請け叩きもすごいし。
基本的にはそういう会社です。「嫌だったら取り引きやめてもいいよ」みたいな。
ですよね。
ただ会長も、年齢とともにいろんな心情変化もあるし、昔ほどシビアさだけで割り切らないんだろうと思います。
とはいえ事業シナジーもあるわけでしょ?上場企業なわけですし、温情だけだと株主総会も揉めるでしょうし。
大塚家具の店舗とか、店舗を運営するためのインフラが手に入るので。まあ、かなり割高かなとは思いますけど。
店舗といっても不動産を持ってるわけじゃないですよ。
仕入先との繋がりもできてるし、意外と社員も辞めてないんですよ、大塚家具は。
いい社員は全部「匠大塚」に移ったとも言われてますが。
言われてますけどね。もし自前で家具事業をやるとして、1からあのレベルであの人数を集めようとしたら、いまの時代とてもじゃないけど無理。
ものすごいお金がかかると。
はい。だからリソースをあの値段で買うのであればまあありかな、と。ヤマダ自体はキャッシュも豊富ですし。
じゃあ、人材、店舗、商品の仕入先、ブランド、そのへんを考えると安いと。たしか40億ぐらいでしたよね。
いや、買値は高いと思います。
高いですか?じゃあ、なんでもっと叩かなかったんですか?
そこがやっぱり、高齢化による温情じゃないかと思うんですよ。
温情ですか。
はい。
昔だったらもっと買い叩いてた?
買い叩いて社長交代してたでしょうね。
へぇ。
やっぱり、どっかで娘に重なるんじゃないですか。
でも「買い叩かれて社長交代」だったら、久美子社長も売ってないと思うんですけど。
とは言えもう、これしか選択肢はなかったんじゃないですか。
これまでにも数々そういうオファーがあって、断り続けてるじゃないですか。
まあ今回は社長のポジションを約束してくれたわけですから。
約束してくれたから売ったんじゃないですか。
どうでしょう。確かにラジカルな改革を「すぐにやれ」ってことはないですけど。でも1番の理由は売値がそれなりに高かったからじゃないですか。
高いですよねやっぱり。妥当なところでいったら、どんなもんですか?
20億ぐらいじゃないですか。
半分ぐらい。
普通だったら20億ぐらいで買って、いろんなリソースをつぎ込んでバリューアップさせる。
なるほど。でも結局、過半数の株を持つってことは、ここから先は実質オーナーじゃないですか。
おっしゃるとおり。
ということは、資金繰りをヤマダ電機が回すことになるわけでしょ?
その通り。
じゃあ、べつに20億でもよかったんじゃないですか。足りなかったらどうせヤマダ電機が金を出すわけなので。
逆じゃないですか。40億出しても「株を持ってればどうせ自分の金だし」みたいな。
じゃあ温情でもないですね。
いや、そんなことないです。久美子さん個人の連帯保証は外れるので。
そんなの温情って言えますか?
何十億も個人保証を入れるって、ああいうお嬢様育ちにはたぶん耐えきれない。
そんなもんでしょうか。
私はすごい温情だと思いますね。
なるほど。ちなみにヤマダ電機との連携で、大塚家具は黒字になりますか?
都市部は厳しいですけど、地方だったらシナジーが出るのかなと思います。
じゃあ黒字にできる算段があって、買収したってことですね。
当然ですね。山田会長なりの「そろばんのはじき方」があるんでしょう。
事業が黒字転換したら、久美子社長は続投することになるんでしょうか?
いや、2年ぐらいしたら辞めるんじゃないかと思います。たぶん軌道に乗れば社長からは外す。
ほぉ。それはどうしてですか?
もう用済みだから。
でも温情があるわけでしょ?本人がやりたいんだったら続けさせるんじゃないですか。
「連帯保証債務を外して、会社も軌道に乗った。あなたは元に戻りなさい」みたいな。
そこで終了ってことですか?
はい。「申し訳ないけど経営者としては荷が重いです」と。
じゃあ経営者として認めてるわけではないってことですか?
経営者として能力がないのは、もう周知の事実なので。
本人的にはどうなんですかね。確かにいま辞めたら「ダメな社長」で終わっちゃいますけど。
そうです。だから「大塚家具のV字回復をやりとげました」という形で終わらせる。あとは本でも出して悠々自適に。
まあ生きていくのに困らないぐらいの資産はあるでしょうからね。
はい。困らないし、結構いい年齢ですし。
本人もその辺りで身を引くつもりなんですかね。
「社長として結果を出したい」っていうのが一番大きいと思いますから。このままだと世間からずっと笑われるので。
でも、これで黒字になって「実力があった」と世間が認めてくれるかどうか。
まあ微妙ですよね(笑)
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。