第72回「リモートワークの境目」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第72回「リモートワークの境目


安田

私もついにZoomを始めました。

久野

みたいですね(笑)

安田

本日のテーマはリモートワークについてです。

久野

危ないやつですね。

安田

べつに危なくないですよ(笑)家で働いてみたら普通に仕事ができて「通勤する必要ないんじゃないか」っていう。

久野

仕事ができる人ほどそうなります。

安田

はい。仕事できる人にしてみたら通勤時間も無駄ですし、1日4~5時間も働けば余裕で給料分ぐらい仕事できちゃう。

久野

だから危ない話になるんです。

安田

危ないというか、会社にとって不都合な真実が露呈しちゃった。

久野

そうなんです。

安田

これってコロナが明けても元に戻らないですよね。

久野

完全には戻らないでしょう。

安田

無理に戻そうとすれば優秀な人が辞めちゃうかもしれない。

久野

そのとおりです。

安田

中小企業でもリモート化は進んでますか?

久野

いや、ぜんぜん進んでないです。

安田

ぜんぜん?

久野

うちの顧問先はとくに製造業が多いので。けっこう通勤してるケースが多いです。

安田

製造業はリモートにできないですもんね。

久野

はい。ゴールデンウィーク前まではバリバリやってました。

安田

仕事はあるんですか?

久野

メーカーって、つくり置きできるんです。今までパンパンで仕事してたので。先の仕事もたくさん受けてるし。

安田

製造現場って、それこそ3密状態にならないんでしょうか。

久野

距離はわりと離れてますね。工作機械とかでかいんで。

安田

社員さんからしたら「命がけで出社させられてる」って思いませんか。

久野

そういう相談は多いですよ。うちの会社はリモートやってくれないんだって。

安田

久野さんに言ってくるんですか?

久野

夜8時とか9時とかに電話がかかってくる。「うちの会社ひどいんだ。全然リモートに移管しないんだ」みたいな。

安田

それは顧問先の社員さん?

久野

いえ。ぜんぜん関係ない社員。だから「うち、そういうことを相談する場所じゃないんで」って断ります。

安田

それは大変ですね。でも中小企業ってリモート化できない仕事が多いですから。

久野

業態もあるんですけど、単にシステムが遅れてるところも多い。 いまだにペーパーレスではなく紙中心で回ってる会社とか。

安田

いま時そんな会社あるんですか。

久野

中小企業はまだまだペーパーレスにはなってないです。

安田

そうなんですか。

久野

FAXだって、今はもうパソコンで見れるじゃないですか。その設定すらしてない。

安田

FAXなんて、まだ使ってる会社あるんですか?

久野

そんなこと言ったら炎上しますよ(笑)。まあアメリカでは既にスミソニアン博物館に飾られてるらしいですけど。

安田

そりゃそうでしょ。過去の遺物ですよFAXなんて。

久野

製造現場ではFAXでの受発注って今でも当たり前な感じです。

安田

なぜメールでやらないんですか?

久野

早いからじゃないですか。

安田

早い?

久野

宛名付けなくてもいいし。

安田

訳がわかりません。中小の経営者は「変わらなくちゃ」って思わないんですか。

久野

意識の低い人は「またどうせ戻るんだろう」と思ってます。

安田

それはコロナの前の状態に戻るってことですか?

久野

はい。僕は戻らないと思うんではっきり言いますけど。

安田

反応はどうですか?

久野

すっごく嫌な顔をされました(笑)

安田

本当に元に戻ると思ってるんですかね。

久野

元に戻るというより「そこまでせんでもいいんじゃないの」って感じ。だから動かないし何も変わらない。

安田

飲食業や宿泊業は大変なことになってますけど。

久野

飲食とかサービス業だけですよ。本当の意味で自粛を強いられてるのって。

安田

電車で通勤する方がよっぽど感染リスク高いんですけど。

久野

中小企業にとっては休ませるリスクの方が大きいんです。

安田

まあそうですよね。大企業だったら1〜2カ月休ませたって問題ないでしょうけど。

久野

中小企業で1ヶ月仕事を止めるって、もう死活問題ですから。

安田

コロナよりよっぽどリスクが高いと。

久野

現実はそういう会社が多い。よほどの優良企業しかキャッシュ持ってないです。

安田

受注残があればいくらでも仕事は回せるし。

久野

そうなんです。

安田

じゃあ製造業の現場ではみんな動いてるってことですね。

久野

小さな会社ほどそうでしょうね。売り上げは減ってますけど、動いてます。

安田

トヨタは生産やめて工場を閉鎖したって、ニュースで流れてました。

久野

トヨタは超優良企業ですから。

安田

でもトヨタが止まったら、いずれその下も一斉に止まるでしょ。

久野

順番に止まってく感じですね。上がなくなった後にすぐになくなるわけじゃない。

安田

なるほど。じゃあリモートワークもじんわり広がっていきますか。

久野

どうでしょう。労働集約の部分があるから中小企業なんですよ、やっぱり。

安田

つまり人間が動かないことには利益を生み出せないってことですか。

久野

そうです。それが中小企業。

安田

リモートで成り立つような仕事じゃないと。

久野

リモートが可能な中小企業もありますけど。

安田

どれぐらいあるイメージですか?

久野

全体の10パーセントぐらい。

安田

10パーセントですか。たったの。

久野

そんなもんだと思いますよ。

安田

営業マンだらけの中小企業もあるじゃないですか。今だにガンガン飛び込みやらせたり。

久野

ありますね。

安田

そういう会社ならリモートで事足りるのでは?

久野

そういう業態の会社ほど社長の発想は遅れてますから。

安田

確かに。

久野

リモートという言葉自体、知らないかもしれません。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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