第78回「国民の生活を支えているのは誰?」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第78回「国民の生活を支えているのは誰?

 


安田

10年後、20年後にコロナを振り返ったとき、自分はこのできごとを「どのように位置付けるんだろう」って考えてまして。久野さんはどうですか?

久野
大きな意味ではぜんぜん分からないですけど。小さなことでいうと、余計な仕事っていうか「付き合いたくない人とはもう仕事しない」って思いましたね。
安田
仕事を選別する「いい機会になった」ってことですか?
久野
すごく「タイムリッチな感じ」になったじゃないですか。
安田

どこにも出かけられませんでしたからね。

久野
はい。じっくり考える時間ができました。とくに仕事の整理はすごく進んだと思います。
安田
私もしましたね。仕事の整理というか人生の整理というか。
久野
分かります。人生から考え直すいい機会になりました。
安田
私の場合は会社がつぶれたときに一度人生がストップしたんですけど。そのとき考えたんですよ。もう金、金じゃなく、ある程度収入の上限を決めようと。好きな人と好きな仕事だけやろうって。
久野
収入の上限ですか。
安田
でないと、どんどん仕事を取ってしまうので。
久野
断るのは勇気が要りますよね。
安田
そうなんです。自分で上限を決めたにも関わらず、仕事の依頼があると「もうちょっと稼いどこうかな」って欲が出てくる。
久野
誰でもそうなりますよ。だって先のこと考えたら不安ですもん。
安田
そうなんですよ。断ったらもう仕事が来ないかもしれない。そうやって気が付いたらめっちゃ忙しくて、新しい仕事を考える暇もなくなってました。
久野
安田さんでもそうなんですね。
安田

はい。だからコロナで時間が止まったときに、もう一回考えたんです。一体何のために生きてるんだろうって。

久野
立ち止まって冷静に考えるとそうなりますよ。普段は忙しくてそんなこと考えてる暇もありませんでしたけど。
安田
コロナは世界規模の出来事なので。人生をもう一回考え直す人がたくさんいたと思います。離婚も増えましたし。
久野
一緒にいる時間が増えて「耐えられなくなった」っていう。
安田
たぶん元からもう限界だったんですよ。でも離婚を真剣に考える時間がなかった。
久野
そうかもしれませんね。これほど人間の活動がストップしたのは初めてですから。
安田
世界同時に無理矢理「一時停止ボタン」を押されちゃったわけですよ。
久野
ですね。
安田
世界中の経済活動が止まったことで、めちゃくちゃ空気がきれいになってるらしいです。
久野
こんなに空気を汚してたのかって。そういうのも止めてみないと分かりませんから。
安田

はい。満員電車だって嫌だなと思いながらも、ずーっと乗ってると、なんとも思わなくなっていく。

久野
人間って嫌なことでも慣れていくんですよ。考えなくなっていくというか。
安田
気付いたら今日も「電車に乗って出社してた」みたいな。歯磨きみたいな感じ。ところが1カ月、2カ月も止まっちゃうと、二度とあんなのに乗れなくなる。
久野
本当そうですね。やりたくないことはやらなくなりました。
安田
拡大志向だった人も「何のために拡大するんだっけ」と考える時間ができちゃった。
久野
はい。私も考える暇もなく「拡大だ、拡大だ」って言ってました。
安田
そう考えるとコロナというは「人類の一時停止ボタン」じゃないかと。私はそう位置付けてるんですが。
久野
まさにそうだと思います。社員さんも絶対いろいろ考えたはず。リモートをやってみて、これからどういう働き方するかとか。すぐには動かいかもしれないけど、心には刻まれたと思う。
安田
マスクとか助成金とか10万円とか、いろいろ配りましたよね。
久野
はい。
安田

でも書類つくったり、申請したり、それを窓口で査定したり、莫大なコストがかかるわけじゃないですか。

久野
マスク配るだけで数百億ですからね。
安田
それより一律で配っちゃったほうが「結果的に安いじゃん」っていう結論に行き着くかもしれません。世界中でベーシックインカムがスピードアップするとか。
久野
スペインはそうですもんね。ベーシックインカムを入れる方向で動いてます。他の国もそうなってく可能性はあります。
安田

どっちにしろ最後には、国が国民を守らなくちゃいけないので。

久野
年金配っても文句言われるし。最後にはそうなるかもしれません。
安田
ただベーシックインカムに関しては「働きもせずに金を受け取るなんて許せない」って人が一定数います。お前ら何のために存在してんだみたいな。
久野

とくに日本は厳しいですね。働かない人には。

安田

そういう「うるさい人」だって、会社の中では赤字社員だったりする。しがみついてるだけなのに他人には厳しくて。

久野
自分が嫌なことを我慢してるから、人には余計厳しくなるんですよ。
安田
でもそれって「国が払ってるか、会社が払ってるか」だけの違いじゃないですか。「ベーシックインカムと同じじゃん」って思いますけど。
久野
私もそれは考えたことがあります。最低賃金とか解雇規制とかって結局そういうことですもんね。働かない人の生活費を会社に払わせてるだけ。
安田
解雇できないし、「最低これだけは払わないといけない」って決まってるので。会社で罵られるか、生活保障の窓口で罵られるかの違いだけ。
久野

休んでいても休業手当もらえますし。会社の業績が悪くても給料は出るし。

安田

会社からベーシックインカムをもらってる人が、日本にはたくさんいるんですよ。

久野
生活保護の人が就職したら金の出どころが変るだけですもんね。
安田
赤字の人がいなくなれば、企業の生産性は飛躍的に上がりますよ。
久野
生産性は上がりますけど国の負担は確実に増えます。
安田
国だったら最低限の生活保障で済みますけど。大企業だったら1000万円を超えるベーシックインカムを払ってるわけです。
久野
確かに。
安田
解雇をOKにして国がベーシックインカムを1人15万円ぐらい払えばいい。4人家族だったら60万あるわけですから十分やっていける。
久野
収入に直結してるから子どもも増えるかもしれませんね。
安田
「4人ぐらい作っておくか」ってなりますよ。それで世帯収入90万円ですから。
久野
ベーシックインカムを導入したほうが、人口問題も解決して需要も増えるので「結果として経済がうまく回る」という説もあります。ただ日本人は根底に「働かざる者食うべからず」って価値観があるので。
安田
「働かざる者」じゃなくて「勤務せざるもの」ですよ、日本人の場合は。会社に出社してるだけで働いてることになるので。
久野

給料が出てれば税金も社会保険も収めてくれますから。国としての勤労の義務は果たしてます。

安田
国にとっては「働くもの」に入ると。出社はしてるけど仕事してない人って、会社にとっては「働かざるもの」ですけど。
久野
国と会社では働くの定義が違いますから。
安田
タイムカード押してるだけで「給料もらえる」って、日本国民であるだけでベーシックインカムもらえるのと何が違うんですか。
久野
そうですね。言われてみれば。
安田
企業に払わせてるだけで一緒ですから。この国は本来国がやるべきことを企業に押しつけているだけ。今回のコロナでも内部留保した資金を使わせようとしてるし。
久野
ほんと、よく経営者は黙ってますよね。


久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから