原因はいつも後付け 第52回 「価格を変えると変わるもの」

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第52回》価格を変えると変わるもの

低価格で商売をしようと考えるオーナーが期待していること。
それは、価格の安さによって、お客さんの「量」を増やすこと。

量が増えれば、単価が下がったとしても結果的に儲けは増える。
そう考えるからこそ、実際に多くのお店が低価格に走ってしまうのだと思います。

でも、これって本当にそうなるのでしょうか?
それなら、もっと多くのお店が儲かっていても良さそうな気がするのです。


私が開業時に低価格で勝負に出た理由。
これは前述の例で挙げたオーナーさん達と全く同じ。

低価格によってお客さんの「量」を増やそうと思ったからです。

価格が高いと、単価の高い人だけを対象にすることになる。
でも、価格を下げれば単価の高い人だけでなく、単価の低い人も対象にすることができる。
だから価格は下げれば下げるだけ、お店に来てくれるお客さんも増える。
そして、私のお店は儲けが増える。

これが当時の私の頭の中でした。

その結果はこのコラムでも度々書いてきた通り。
価格が安いから儲からないし、お客さんも増えずに散々でした。

そして、低価格では集客できないと知って、商品改善と値上げをしてみて起きたこと。
それが、お客さんは減らないという結果でした。

正確に言うと、値上げをした直後は減った記憶があります。
ただ結果的には、お客さんは減るどころか逆に増えたのです。

冒頭に挙げた理屈で考えるなら、価格を上げたら対象となるお客さんが減る分、集客も減るはずです。にも関わらず、当初の想定とは違った結果になった原因。

それが、値上げをしないと来てくれないお客さんの「層」があったという事実。

これはつまり、安売りをしている限りこのお客さんたちには出会えなかったということであると同時に、価格が安ければお客さんの「量」が増えるという理屈は間違いだったということです。

「安売りをしてはいけない。」
「高単価の顧客をターゲットにせよ。」

こんな言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
にも関わらず、多くのお店が低価格に走ってしまうのは、やはり心のどこかで「低価格なら単価の低い人も、単価の高い人も集客できる」と期待してしまっているからではないでしょうか?

でも、そんな事は私のお店には起きませんでした。
そして、これは私が集客をお手伝いしているお店でも同じです。

だから私たち店舗オーナーは、価格でお客さんの「量」を増やそうとするのではなく、価格でお客さんの「層」を決める必要があるのです。

価格で変わるのはお客さんの「量」ではなく「層」であり、この事実こそが私が冒頭に挙げた「低価格で集客を増やせるなら、もっと多くのお店が儲かっていても良さそう」にも関わらず、その多くが全く儲からないという事実に直面してしまう原因なのだと思います。


今から18年前、1号店オープン前日の風景。
この時はまだ、低価格ならたくさん集客できると楽観していたものです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

感想・著者への質問はこちらから