第195回 褒められない環境

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

先日、社員からこんなことを聞かれました。
「創業してから今までで一番キツかった時期はいつですか?」と。

キツいと言ってもその種類は一つではないため、少しの間考えましたが、結局私は「創業してからの一年間」と答えました。

創業してからの一年は、当然金銭的なキツさもありましたが、それと同時にキツかったのは、なかなか売れないことで「自分は世の中から必要とされていないのではないか?」と感じてしまっていたことなのです。


商売を始めようと考えた時、お金の心配をする人は多いと思います。
私自身、お金に関しては相当苦労するだろうと予想はしていたため、金銭的な問題についてはある程度、想定内だったと言えます。

一方で、私が全く想定していなかった問題というのが、先ほど挙げた「売れないことによる自分が必要とされていない感」であり、この感覚が自分の商売に対する挑戦意欲を次第に削いでいってしまっていた様に感じるのです。

商売がある程度軌道に乗ってくれば、日々お客さんから感謝の気持ちを伝えてもらったり、取引する会社も増えたりするなど、自分が世の中に必要とされていると実感することができますが、軌道に乗るまでの厳しい時期ほど、こうした実感を得られにくい訳です。

では、そんな当時の私ができることは何だったのかと振り返って考えてみると、それは「自分で自分を褒めること」だったと思うのです。

起業をすれば、当然自分の上司という存在はいなくなります。
私自身、少なからず企業のそういった関係性から離れて自由に仕事がしたいという思いがあったのも事実です。

ただ、いざ起業をしてみて分かったのは、上司がいないという環境は「怒られずに自由にできる反面、褒められることもない」という環境であり、いま思えばなかなか売れず、世の中から必要とされている感を感じづらい時期だからこそ、自分自身が自分の上司役となり、日々の取り組みや成果に繋がらなかったチャレンジも褒めてあげる必要があったのでしょう。

商売を始める時は、つい自分自身を厳しく評価してしまいがちですが、商売をなるべく早く軌道に乗せることを目的とするならば、自分で自分を褒めて挑戦する意欲を失わないようケアしてあげることこそが大切な姿勢だったと今は思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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