第87回「トヨタチームの正念場」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第87回「トヨタチームの正念場」


安田

トヨタの社長さんってすごく危機感を持ってますよね。いろんなコストダウンもやったりして。

久野

はい。危機感持ってるのはすごく感じます。

安田

トヨタがいろんなことを改革していったときに、「トヨタについていけば大丈夫」と思ってる下請けさんたちは、ほんと大丈夫なんでしょうか。

久野

まずひとつEVシフトがあるじゃないですか。

安田

電気自動車ですね。

久野

はい。これって、とてつもないインパクトで。EVが来た瞬間にエンジン部品って終わってくので。第一段階としては徐々に縮小していくイメージだと思います。

安田
これまでのエンジンを縮小するってことですか。
久野

「どこにベットするべきか」ってことを、トヨタはすごく意識してると思います。お客さんを見ていても、そこはすごく色濃く感じますね。

安田

トヨタ系列でも、トヨタの100%子会社もあれば、ただの外注先もあるじゃないですか。

久野

ありますね。

安田

すべての発注先を守っていくのは不可能だと思うんですけど。

久野

一次受け、二次受けみたいな感じで、どんどん下に降りてくるんですけど。それぞれ1個下の会社の株を持ってるみたいな構造が多いんです。

安田

じゃあ大きな目で見れば、全部トヨタの子会社だと。

久野

トヨタはスタンスを結構はっきりさせてきてます。残したい会社は赤字だったとしても資金投入してくる。

安田

そうじゃないところは?

久野
そうじゃないところは、そのまま放っといちゃうんじゃないですか。
安田

なるほど。系列や下請けの中で「ここは残していこう」「ここはもうしょうがないね」ってのを割り切ってると。

久野

私も地元なので、こんなこと言うと殺されそうなんですけど(笑)。でもそれは絶対あると思います。お客さん見てても感じます。

安田
お客さんは、そういう危機感を感じてるってことですか。
久野

感じてますね。トヨタが守る会社って基本的に2種類あるんですけど。

安田

2種類?

久野

技術的な部分でなくせない会社と、スケール的な意味でなくせない会社。

安田

スケール的な意味というと?

久野

要は規模をつくれる会社。そこがなくなったら困るじゃないですか。

安田

そこがなくなったら規模が縮小しちゃうってことですか。

久野

いっぺんに何万部品とつくれるような工場とか。

安田

ああ、なるほど。量をこなせる下請けってことですね。

久野

でかいところはでかいところで競争優位性がある。あとは技術力が高い会社。中途半端な会社は厳しいと思います。そしてEVシフトに向けてどこを残していくのか。トヨタの中ではある程度もう決まってると思います。

安田

決まってますか。そういう情報って100%子会社でもなければ手に入らないですよね。

久野

そうでしょうね。

安田

じゃあ下請け企業さんとしたら「どこかでトヨタ頼みの仕事はやめないとまずい」という自覚はあると。

久野

自動車業界全体の問題ですから。コロナで世界的な販売台数も激減してますし。車離れというキーワードもあるし。あとはやっぱりEVへの移行。

安田

エンジンがいらなくなりますもんね。

久野

そうなんです。なので単純に「ホンダに移ろう」っていう発想だときびしい。宇宙産業とか家電とか、新たな模索をしてるお客さんのほうが多いです。

安田

そういう「新たな方向性を考えてる」経営者って結構いるんですか?

久野

結構いますけど、下請け比率が2割を超えた時点で、もう相当きついんですよ。

安田

たった2割で?

久野

いや、きついですね。2割1社専属だと。

安田

多いところだったら8割とかあるでしょう?

久野

8割だと、もう抜け出すよりは「つながっていくこと」を考えた方がいい。80からどうやって100にもってくか。

安田

なんとか食らいついてぶら下がっていくと。

久野

トヨタの一部としてくっつくみたいな。でも8割のとこって、逆にいうと元請けからしても絶対切れないんですよ。

安田

どうしてですか?

久野

そこを失うと400人、500人の労働力を一気に失うことになるから。だから切っても切れない関係になってます。

安田

なるほど。ちなみに系列の中では「トヨタ本体の社員」がいちばん給料高いんですか?

久野
そうでしょうね。
安田

そこをできるだけ縮小して、つまり小さい政府にして、どんどん下請けに振っていくのはどうですか。下請けを切るより利益が出そうですけど。

久野

トヨタって元々「系列みんなでつくってる」ビジネスモデルなんですよ。

安田

「みんなでつくってる」と言いながら、下にいくほど、どんどん給料は安くなるんでしょう。労働環境もひどくなるし。そんなことないですか?

久野

そんなことあります(笑)

安田

完全なヒエラルキー状態じゃないですか。どんどん上に搾取され続ける。その一番上がトヨタ本体。

久野

値段も絞られて絞られて。

安田

ですよね。今後も甘んじてそこを受け入れるんでしょうか。系列企業さんは。

久野

いずれにしても「グループ全員を守る」ってことは考えてないと思います。

安田

さすがにそれはしんどいと。

久野

はい。だからもう中国企業に買ってもらったりとか。いいとこだけピックアップして新しい事業を始めたりとか。言い方悪いけど「野に放つ」か「どっかに売るか」みたいな。

安田

つまり大きな意味でのリストラですよね。

久野
そうですね。
安田

社員を解雇するよりは、下請けを切るほうが世の中からの見え方もいいですよね。

久野

ニュースにもならないですし、法的にもやりやすいです。

安田

やっぱそうですよね。

久野

はい。解雇ではないですから。でも現実的に、トヨタから仕事を全部切られたら、とんでもないことが起きますけど。

安田

久野さんの考えではどうなんですか。トヨタはいきなりスパンと切っちゃうのか。それとも徐々に徐々に安くしたりとか、仕事を減らしていって、「危機感を持って自分たちでやってね」ぐらいのことはやってくれるのか。

久野

お客さんの話を聞いてると、それをもう「何年も前からやられてる」って感じですね。

安田

なんと!もうすでにやってると。

久野

そもそも値下げ要求を「飲めるか飲めないか」って、毎年チャレンジさせていく文化なんですよ。そこで残っていく人たちって、めちゃくちゃ競争力上がるんです。

安田

じゃあすでに競争力が高い?

久野

その競争に音を上げる会社は自然にいなくなっていくので。

安田

競争に勝ってきた会社はこの先も安泰だってことですか。

久野

いえ。もう一段二段きびしい要求になっていくでしょうね。電気に変わっていく過程で。

安田

なるほど。これからが正念場ですね。

久野

はい。トヨタチームの正念場はこれからです。



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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