トヨタの社長さんってすごく危機感を持ってますよね。いろんなコストダウンもやったりして。
はい。危機感持ってるのはすごく感じます。
トヨタがいろんなことを改革していったときに、「トヨタについていけば大丈夫」と思ってる下請けさんたちは、ほんと大丈夫なんでしょうか。
まずひとつEVシフトがあるじゃないですか。
電気自動車ですね。
はい。これって、とてつもないインパクトで。EVが来た瞬間にエンジン部品って終わってくので。第一段階としては徐々に縮小していくイメージだと思います。
「どこにベットするべきか」ってことを、トヨタはすごく意識してると思います。お客さんを見ていても、そこはすごく色濃く感じますね。
トヨタ系列でも、トヨタの100%子会社もあれば、ただの外注先もあるじゃないですか。
ありますね。
すべての発注先を守っていくのは不可能だと思うんですけど。
一次受け、二次受けみたいな感じで、どんどん下に降りてくるんですけど。それぞれ1個下の会社の株を持ってるみたいな構造が多いんです。
じゃあ大きな目で見れば、全部トヨタの子会社だと。
トヨタはスタンスを結構はっきりさせてきてます。残したい会社は赤字だったとしても資金投入してくる。
そうじゃないところは?
なるほど。系列や下請けの中で「ここは残していこう」「ここはもうしょうがないね」ってのを割り切ってると。
私も地元なので、こんなこと言うと殺されそうなんですけど(笑)。でもそれは絶対あると思います。お客さん見てても感じます。
感じてますね。トヨタが守る会社って基本的に2種類あるんですけど。
2種類?
技術的な部分でなくせない会社と、スケール的な意味でなくせない会社。
スケール的な意味というと?
要は規模をつくれる会社。そこがなくなったら困るじゃないですか。
そこがなくなったら規模が縮小しちゃうってことですか。
いっぺんに何万部品とつくれるような工場とか。
ああ、なるほど。量をこなせる下請けってことですね。
でかいところはでかいところで競争優位性がある。あとは技術力が高い会社。中途半端な会社は厳しいと思います。そしてEVシフトに向けてどこを残していくのか。トヨタの中ではある程度もう決まってると思います。
決まってますか。そういう情報って100%子会社でもなければ手に入らないですよね。
そうでしょうね。
じゃあ下請け企業さんとしたら「どこかでトヨタ頼みの仕事はやめないとまずい」という自覚はあると。
自動車業界全体の問題ですから。コロナで世界的な販売台数も激減してますし。車離れというキーワードもあるし。あとはやっぱりEVへの移行。
エンジンがいらなくなりますもんね。
そうなんです。なので単純に「ホンダに移ろう」っていう発想だときびしい。宇宙産業とか家電とか、新たな模索をしてるお客さんのほうが多いです。
そういう「新たな方向性を考えてる」経営者って結構いるんですか?
結構いますけど、下請け比率が2割を超えた時点で、もう相当きついんですよ。
たった2割で?
いや、きついですね。2割1社専属だと。
多いところだったら8割とかあるでしょう?
8割だと、もう抜け出すよりは「つながっていくこと」を考えた方がいい。80からどうやって100にもってくか。
なんとか食らいついてぶら下がっていくと。
トヨタの一部としてくっつくみたいな。でも8割のとこって、逆にいうと元請けからしても絶対切れないんですよ。
どうしてですか?
そこを失うと400人、500人の労働力を一気に失うことになるから。だから切っても切れない関係になってます。
なるほど。ちなみに系列の中では「トヨタ本体の社員」がいちばん給料高いんですか?
そこをできるだけ縮小して、つまり小さい政府にして、どんどん下請けに振っていくのはどうですか。下請けを切るより利益が出そうですけど。
トヨタって元々「系列みんなでつくってる」ビジネスモデルなんですよ。
「みんなでつくってる」と言いながら、下にいくほど、どんどん給料は安くなるんでしょう。労働環境もひどくなるし。そんなことないですか?
そんなことあります(笑)
完全なヒエラルキー状態じゃないですか。どんどん上に搾取され続ける。その一番上がトヨタ本体。
値段も絞られて絞られて。
ですよね。今後も甘んじてそこを受け入れるんでしょうか。系列企業さんは。
いずれにしても「グループ全員を守る」ってことは考えてないと思います。
さすがにそれはしんどいと。
はい。だからもう中国企業に買ってもらったりとか。いいとこだけピックアップして新しい事業を始めたりとか。言い方悪いけど「野に放つ」か「どっかに売るか」みたいな。
つまり大きな意味でのリストラですよね。
社員を解雇するよりは、下請けを切るほうが世の中からの見え方もいいですよね。
ニュースにもならないですし、法的にもやりやすいです。
やっぱそうですよね。
はい。解雇ではないですから。でも現実的に、トヨタから仕事を全部切られたら、とんでもないことが起きますけど。
久野さんの考えではどうなんですか。トヨタはいきなりスパンと切っちゃうのか。それとも徐々に徐々に安くしたりとか、仕事を減らしていって、「危機感を持って自分たちでやってね」ぐらいのことはやってくれるのか。
お客さんの話を聞いてると、それをもう「何年も前からやられてる」って感じですね。
なんと!もうすでにやってると。
そもそも値下げ要求を「飲めるか飲めないか」って、毎年チャレンジさせていく文化なんですよ。そこで残っていく人たちって、めちゃくちゃ競争力上がるんです。
じゃあすでに競争力が高い?
その競争に音を上げる会社は自然にいなくなっていくので。
競争に勝ってきた会社はこの先も安泰だってことですか。
いえ。もう一段二段きびしい要求になっていくでしょうね。電気に変わっていく過程で。
なるほど。これからが正念場ですね。
はい。トヨタチームの正念場はこれからです。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。