2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第150回「キャリアバリカン」
第151回「コロナ禍の生き残り戦略」
ワタベウェディングさん、銀行の借金を減らしてもらうために「私的整理」をやられたみたいで。
はい。借金185億円ですね。
その約半分を銀行が帳消しにしてくれて、そのかわりスポンサーが後ろ盾になって事業を立て直していくと。
半分にする代わりに「残りはちゃんとスポンサーになった会社が返済してね」ということです。
スポンサーになられたのはどこでしたっけ?
興和ですね。
こうわ?
医薬品メーカーのコーワです。
ああ、あのコーワですか。
「ウナコーワ」の興和。
すごく畑違いですけど。
業界はぜんぜん違いますね。
ワタベさんの業績悪化の原因はコロナですか。
間違いなくコロナですね。海外ウェディングが主力の会社なので、海外に行けないとなると売上が立たない。
去年の単年赤字が180億。借金のほとんどをこの1年で抱えちゃったみたいです。
おっしゃる通り。この1年間コロナで売上がほとんど立たなかったから。
銀行ってなかなか私的整理には応じてくれないですよね。なぜ今回は応じたのか。
「コロナ明けに戻る」と踏んでるからです。
「つぶれなければ、なんとかなる」と。
いまつぶしたら185億まるまる損じゃないですか。
はい。私も経験者ですけど民事再生になったらほぼ飛びます。それを回避したと。
「コロナが終われば海外ウェディングは戻る。いや、むしろ反動でもっと戻る」という読みでしょう。でないと銀行は応じないですよ。
コーワがスポンサーになった理由は?
違う事業で「ほぼできあがってるもの」を子会社にしたいから。
これだけ畑違いでも経営できるんでしょうか。
ビジネスモデルはそんなに変える必要がないから。コーワって名古屋にあるんですけど、名古屋は結婚式にすごくお金をかける土地柄なんですよ。
へえ。
コロナが明ければ絶対に儲かる。だから欲しい。要するに“バーゲンセール”で出たから「はい!すぐ買うよ!」って感じ。
90億の借金が付いていても安いと。
要するに90億で買ったようなものなので。
「本業が戻れば90億の借金は返せる」という読みですか。
本業も儲かってるし。べつにこれぐらい抱えたところで屋台骨は揺らぎません。むしろ節税にもなるし。
他にも買いたい会社ってあったんでしょうか。
逆貼りって勇気いりますからね。向かい風のなか立ち向かうようなものなので。
つぶれちゃったら借金だけ背負うわけですからね。
そうです。90億でBETしたような感じですよ。
たとえば銀行自身がスポンサーになる可能性はないんですか?
銀行には事業をやれる人間がいない。ファンドとのいちばんの違いはそこですよ。
なるほど。
本当は銀行も事業をやらないといけないんです。だけど出来ない。
今回はコーワさんに入ってもらって、半分でも回収できればいいやと。
コーワであれば「最悪90億の焦げつきで済む」と踏んでるんでしょう。
なるほど。
「損して得取れ」で。また事業が伸びれば「あのとき債権放棄したから頼みます。また借りてください」「わかってるわかってる」って話になる。
ワタベウェディングってコロナ前は優良企業だったんですか?
海外ウェディングがすごく伸びてました。
じゃあ泣く泣く手放す感じ?
ワタベウェディングはちょっとしたお家騒動があって。
お家騒動?
次の承継がうまくいってないんです。息子さん、人柄はいいんですけど経営者には向いてなくて。
へえ〜。
今は違う方が社長をやってます。
その方は優秀なんですか?
でも利益率も高いし、ビジネスモデルがシンプルだから儲かるんです。
じゃあ優秀なんですね。
ところが、いまみたいな逆風になって。まったく売上が立たなくなると、もうお手上げ。こんなことは誰も予想してなかったので。
オーナーは売却益を得ることもできないですよね。これだけ借金があると。
おっしゃる通り。戦わずして城を開ける無血開城みたいな感じ。
悲しいですね。
保証が外れるからいいじゃないですか。
確かに。自己破産もしなくて済みますね。
もう身軽ですよ。
社長に向いてなかった2代目さんは、どうやって食べていくんでしょう。
これは僕の推測ですけど。創業家にもそれなりのお金は動いてると思う。
なるほど。
まあ食っていく分にはそんなに苦労しないんじゃないでしょうか。
今回はワタベウェディングさんでしたけど。コロナが長引くと、こういう会社は増えますよね。
エイチ・アイ・エスだってわからないと思います。
なんと。
エイチ・アイ・エスもいま巨額のつなぎ調達をやってます。いつまで長引くかですよね。あとは前から言ってますけどJAL・ANAも厳しいと思う。
これから恐ろしいことが起こりそうですね。 リストラの嵐が来そう。
優秀な社員は何も心配することないと思います。
そうですか。
安田さんだったらどうします?安く買って子会社にするとしたら、今いる社員はどうします?
優秀な人だったら抱えておきたいです。
そうですよね。むしろスポンサーが付いて、「興和グループだったら安心だ」ってチャンスじゃないですか。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。