第151回「コロナ禍の生き残り戦略」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第150回「キャリアバリカン」

 第151回「コロナ禍の生き残り戦略」 


安田

ワタベウェディングさん、銀行の借金を減らしてもらうために「私的整理」をやられたみたいで。

石塚

はい。借金185億円ですね。

安田

その約半分を銀行が帳消しにしてくれて、そのかわりスポンサーが後ろ盾になって事業を立て直していくと。

石塚

半分にする代わりに「残りはちゃんとスポンサーになった会社が返済してね」ということです。

安田

スポンサーになられたのはどこでしたっけ?

石塚

興和ですね。

安田

こうわ?

石塚

医薬品メーカーのコーワです。

安田

ああ、あのコーワですか。

石塚

「ウナコーワ」の興和。

安田

すごく畑違いですけど。

石塚

業界はぜんぜん違いますね。

安田

ワタベさんの業績悪化の原因はコロナですか。

石塚

間違いなくコロナですね。海外ウェディングが主力の会社なので、海外に行けないとなると売上が立たない。

安田

去年の単年赤字が180億。借金のほとんどをこの1年で抱えちゃったみたいです。

石塚

おっしゃる通り。この1年間コロナで売上がほとんど立たなかったから。

安田

銀行ってなかなか私的整理には応じてくれないですよね。なぜ今回は応じたのか。

石塚

「コロナ明けに戻る」と踏んでるからです。

安田

「つぶれなければ、なんとかなる」と。

石塚

いまつぶしたら185億まるまる損じゃないですか。

安田

はい。私も経験者ですけど民事再生になったらほぼ飛びます。それを回避したと。

石塚

「コロナが終われば海外ウェディングは戻る。いや、むしろ反動でもっと戻る」という読みでしょう。でないと銀行は応じないですよ。

安田

コーワがスポンサーになった理由は?

石塚

違う事業で「ほぼできあがってるもの」を子会社にしたいから。

安田

これだけ畑違いでも経営できるんでしょうか。

石塚

ビジネスモデルはそんなに変える必要がないから。コーワって名古屋にあるんですけど、名古屋は結婚式にすごくお金をかける土地柄なんですよ。

安田

へえ。

石塚

コロナが明ければ絶対に儲かる。だから欲しい。要するに“バーゲンセール”で出たから「はい!すぐ買うよ!」って感じ。

安田

90億の借金が付いていても安いと。

石塚

要するに90億で買ったようなものなので。

安田

「本業が戻れば90億の借金は返せる」という読みですか。

石塚

本業も儲かってるし。べつにこれぐらい抱えたところで屋台骨は揺らぎません。むしろ節税にもなるし。

安田

他にも買いたい会社ってあったんでしょうか。

石塚

逆貼りって勇気いりますからね。向かい風のなか立ち向かうようなものなので。

安田

つぶれちゃったら借金だけ背負うわけですからね。

石塚

そうです。90億でBETしたような感じですよ。

安田

たとえば銀行自身がスポンサーになる可能性はないんですか?

石塚

銀行には事業をやれる人間がいない。ファンドとのいちばんの違いはそこですよ。

安田

なるほど。

石塚

本当は銀行も事業をやらないといけないんです。だけど出来ない。

安田

今回はコーワさんに入ってもらって、半分でも回収できればいいやと。

石塚

コーワであれば「最悪90億の焦げつきで済む」と踏んでるんでしょう。

安田

なるほど。

石塚

「損して得取れ」で。また事業が伸びれば「あのとき債権放棄したから頼みます。また借りてください」「わかってるわかってる」って話になる。

安田

ワタベウェディングってコロナ前は優良企業だったんですか?

石塚

海外ウェディングがすごく伸びてました。

安田

じゃあ泣く泣く手放す感じ?

石塚

ワタベウェディングはちょっとしたお家騒動があって。

安田

お家騒動?

石塚

次の承継がうまくいってないんです。息子さん、人柄はいいんですけど経営者には向いてなくて。

安田

へえ〜。

石塚

今は違う方が社長をやってます。

安田

その方は優秀なんですか?

石塚

でも利益率も高いし、ビジネスモデルがシンプルだから儲かるんです。

安田

じゃあ優秀なんですね。

石塚

ところが、いまみたいな逆風になって。まったく売上が立たなくなると、もうお手上げ。こんなことは誰も予想してなかったので。

安田

オーナーは売却益を得ることもできないですよね。これだけ借金があると。

石塚

おっしゃる通り。戦わずして城を開ける無血開城みたいな感じ。

安田

悲しいですね。

石塚

保証が外れるからいいじゃないですか。

安田

確かに。自己破産もしなくて済みますね。

石塚

もう身軽ですよ。

安田

社長に向いてなかった2代目さんは、どうやって食べていくんでしょう。

石塚

これは僕の推測ですけど。創業家にもそれなりのお金は動いてると思う。

安田

なるほど。

石塚

まあ食っていく分にはそんなに苦労しないんじゃないでしょうか。

安田

今回はワタベウェディングさんでしたけど。コロナが長引くと、こういう会社は増えますよね。

石塚

エイチ・アイ・エスだってわからないと思います。

安田

なんと。

石塚

エイチ・アイ・エスもいま巨額のつなぎ調達をやってます。いつまで長引くかですよね。あとは前から言ってますけどJAL・ANAも厳しいと思う。

安田

これから恐ろしいことが起こりそうですね。 リストラの嵐が来そう。

石塚

優秀な社員は何も心配することないと思います。

安田

そうですか。

石塚

安田さんだったらどうします?安く買って子会社にするとしたら、今いる社員はどうします?

安田

優秀な人だったら抱えておきたいです。

石塚

そうですよね。むしろスポンサーが付いて、「興和グループだったら安心だ」ってチャンスじゃないですか。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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