企業同士で提携を考える時、
あるいは誰かと交渉する時、
誰もが同じことを考えるのではないだろうか。
どうすれば相手より優位に立てるのか。
つまり、主導権を握るにはどうすればいいのか、
ということである。
相手の弱みを握る。
完璧な知識武装をする。
裏から根回しをしておく。
どれも悪くはないが、所詮は小手先の戦術である。
実は、もっと根本的なところで、
決定的な主導権を握る方法がある。
それは、相手に「利」を譲り渡してしまうことである。
何を馬鹿なことを言っているのだと、思われるだろうか。
利を得るために交渉しているのであり、
利を失ったら意味がないではないか。
そう思われるだろうか。
もちろん、交渉によって利は得なくてはならない。
私は何も、それを放棄しようと言っているわけではない。
重要なのは、
自分が得る利以上の利を、相手に与えることである。
より多くの利を得るための交渉。
それは、目に見えるほど単純なものではない。
五年、十年先の利。
あるいは、その交渉から離れたところで発生する利。
そこまで考えなくては、本当の利を手にする事は出来ない。
目の前の、短期的な、単純な利。
それを相手に譲り渡すことによって、
もっと大きな利を手に入れるのである。
たとえば100の利益を分ける場合、
相手に80を渡してしまう。
こちらは20しか受け取らない。
相手にとってはこの上ない好条件の提携先である。
だが、提携によって大きな利を得る側は、
それが破綻することによって失う利も大きい。
20の利益なら、別に失ってもいい。
この条件の提携なら、他にいくらでも出来る。
80の利益は、失うわけにはいかない。
こんな条件の提携は、他では絶対に出来ない。
その立場の違いが、主導権を決定づけることになる。
相手に利を与えることにより、
こちらが主導権を握るという戦略。
これは、国家間の交渉事にも使えるし、
個人と会社、上司と部下という関係でも使うことが出来る。
大抵の人間は、
目の前の損得だけで、その関係性を判断している。
この社員は、給料の何倍もの利益を稼いでくれる。
この部下は、上司である自分には、とてもお得な存在だ。
ドラマや映画ではそういう人材は、
会社や上司にいいように利用されて終わるのだが、
実際の社会ではそうはならない。
会社や上司に利を与え続けることにより、
仕事の進め方、組織の作り方、
という重要部分の主導権を握ることが出来るからだ。
会社や上司に利をもたらす人材は、どこの会社も欲しがる存在だ。
辞めても仕事には困らない。だが辞められると会社は困る。
当然のことながら上司や会社は、
その人材が定着してくれるように、
より活躍してくれるように、
働きやすい環境を作ろうとするだろう。
すべての鍵は、相手により大きな利を与えることにある。
言い換えるならば、自分の利を捨てること。
それがこの人間社会で成功するための、最大のコツなのである。
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