第205回「三菱UFJの新戦略」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第204回「NHKの存在意義」

 第205回「三菱UFJの新戦略」 


安田

三菱UFJ銀行が、サイバーエージェントと組んで広告事業をやるみたいです。

石塚

ああ、はいはい。

安田

三菱UFJなら、すごいデータやリストを持ってそう。しかも決裁者にかなりの確率で会えますし。

石塚

すごいでしょうね。

安田

よくサイバーエージェントと組んだなって思うんですけど。

石塚

そうですか。僕はもう当然の流れって感じがします。

安田

へぇ~。

石塚

銀行業って、たぶんこの先イオンみたいになると思う。

安田

イオン?

石塚

イオンはでっかい商業施設をつくる。そこに自前のスーパーもあるけど、基本的な稼ぎ頭はテナント料なんですよ。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。銀行もそれと同じ。インフラをいろんなテナントに使わせて、それで稼ごうってのは当然の帰結。

安田

なぜ今までやらなかったんですか。

石塚

今はそれだけ切羽詰まっているってことですよ。

安田

これまではやる必要がなかったってことですか。

石塚

そう。まあ大名商売なんでね。いい時代が長すぎたんですよ。

安田

これからはインフラを活かしてどんどん新規事業をやっていくと。

石塚

だけど自前では出来ないから、どんどん提携を加速させてるんだと思う。

安田

なるほど。

石塚

それなりに賢い人はいるから、どことコラボすれば銀行に金が落ちるのか、いろいろ考えてると思う。

安田

賢くても自前での事業立ち上げはムリですか。

石塚

ムリでしょう。いままで銀行が成功した本業以外の事業なんて、消費者金融ぐらいですよ。

安田

へえ〜。

石塚

そんなマインドもないし、そんな社風でもない。とすれば、どんどん提携して新しいサービスを切り出していく以外にない。トップはそう考えてるんじゃないんですか。

安田

でも銀行って、国のお墨付きで国民からお金を預かって、企業の裏データまで見られるわけですよね。

石塚

社内人脈とか、誰が決裁者かとか、ある意味ぜんぶ把握してますね。

安田

個人情報も持ってますよね。たとえばアパートを売りたいときに、資産家のリストもあるし。

石塚

もちろん持ってます。

安田

アポイントも取りやすいし、そこに融資を付けることもできるし。

石塚

おっしゃる通り。

安田

それをやっちゃったら、民間企業が太刀打ちできなくなると思うんですけど。

石塚

銀行も民間企業ですから。「銀行法の範囲内で稼げるものは、なんでも稼げ」ってことでしょう。

安田

「なんでもあり」みたいな状態に見えるんですけど。

石塚

「なんでもあり」にしたいんじゃないんですか、銀行は。

安田

そんなことを銀行に許していいんでしょうか。圧倒的に有利ですよね。

石塚

有利でしょうね。

安田

銀行のお墨付きで社長を紹介してもらえたら、営業だってめちゃくちゃ簡単ですよ。

石塚

まさにそこを狙ってるんでしょう。

安田

そんなことしていいんですか。

石塚

いいも悪いも、社会はデータ資本主義になっていきますから。

安田

お金を借りてる立場の人は「この人を紹介したいんだ」って言われて、「いや、結構です」って断れないじゃないですか。

石塚

そういう立場の人はそうでしょうね。

安田

取引先銀行から電話がかかってきたら、出ないわけにもいかないし。「そんなことが許されるのかな」って気がするんですけど。

石塚

優良企業なら「三菱から金なんていらないよ」って思ってますよ。大企業はいくらでも直接調達できるし。

安田

なるほど。

石塚

逆にそこの焦りが強烈にあると思う。コーポレートファイナンスの世界で「三菱は戦えるのか?」って話ですよ。

安田

でも個人向けは有利ですよ。貯金1億円以上の人に限定した広告だって打てるわけで。

石塚

どうでしょう。いままでお高くとまっていた三菱が、そんなサービスをつくれるのか。

安田

単にDMを送るだけでは見てもらえないと。

石塚

ムリでしょ。今この時代に。

安田

サービス構築力が必要だと。

石塚

そうなんですけど彼らは頭が硬いから。だから稼ぎ頭は相変わらず住宅ローンなんですよ。

安田

だからコラボなんですね。

石塚

苦肉の策だと思いますよ。

安田

「このターゲット層をこの地域で集めます。銀行主催のセミナーをやります。コラボしませんか」って言えば、乗ってくる会社はいくらでもありそう。

石塚

あるでしょうね。

安田

単純なビジネスなのにサイバーエージェントと組んでやる必要があるんですか。

石塚

サイバーとの提携は、おそらくスマホ対応を意識してると思うんですよ。データをある程度つなげさせてあげればチャリンチャリン銀行に落ちるっていう。

安田

チャリンチャリン?

石塚

たとえば個人がスマホから入出金すると、そこに広告が出てくるってことですよ。

安田

なるほど。銀行は自分で広告を取ってこれないですもんね。

石塚

そう。ただし、この話には落とし穴があって。

安田

落とし穴?

石塚

さっきのサービス力の話ですよ。ネット決済でスマホの使い勝手がいちばん悪い銀行が三菱UFJなんです。特に法人向けネット決済は。

安田

なんと!

石塚

三菱って本当に使いづらいんです。そこのユーザビリティを上げないとユーザーはどんどん離れていきます。

安田

使い勝手は悪いし広告ばかり出てくるし。

石塚

だから本当にやれるんだろうか?っていうのが僕の実感ですね。絵は描けるけど実体が伴うかどうか。

安田

天下の三菱UFJなのに。ユーザビリティぐらい簡単に上げてほしいですよね。

石塚

簡単ではないですよ。だからみずほもああなってしまったわけで。

安田

確かに。

石塚

その点SBIはすごくよくできてます。手数料は無料だし使い勝手もいいし。今のままだと勝てないでしょうね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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