第191回 ドーピング国家

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第191回「ドーピング国家」


安田

最近、中国には行かれてますか?

久野

いや、全然。コロナから行ってないですね。

安田

ついに中国は完全無人タクシーを商用化しました。

久野

すごいですよね。

安田

4兆円市場ができると言われてます。

久野

やっぱり、こういうスピードが日本とは違い過ぎます。

安田

日本はハンコひとつ無くせないですからね。自動運転システムでは遅れをとることになりそうです。

久野

もう勝てないんじゃないですか。

安田

なぜ中国はこんなスピードで実現できるんですか。やっぱり一党独裁だからでしょうか。

久野

中国に行って思ったんですけど優先順位が違うんですよ。「国家の成長」ってところに一番の重きを置いてる。

安田

それは人の命よりも?

久野

人の命を大事にしないとは思わないですけど。一党独裁なので反乱みたいなのが一番怖いんですね。

安田

反乱ですか。

久野

要は何が恐ろしいかっていうと、経済が縮み人々の生活が悪くなること。それが政府への不満につながるので。

安田

なるほど。

久野

とにかく世界に先駆けてイノベーションを起こし、儲かっていく国にしていかなきゃいけない。そういう視点がすごく強いです。

安田

自動運転で事故が起こっても、国民の反乱は起きないんでしょうか。

久野

深圳に行ったとき思ったんですけど。人は二の次ですね。道路なんてもう命がけで渡らなきゃいけないんですよ。

安田

命懸けで渡る? 

久野

まず歩行者の信号が短いんですよ、赤になるまでが。それに日本だとロスタイムみたいのがあるじゃないですか。

安田

ロスタイム?

久野

日本だと赤になって、ちょっとしてから車が来る。中国は赤になった瞬間にもう車が来てます。ロスタイムが一切ないです。

安田

怖過ぎますね。

久野

要は、いかに物流を止めないか。そういう視点でつくってるので、人を大事にしないとは言わないですけど優先度が全然違う。

安田

習近平さんが経済に舵を切ったのも「このままでは国内の不満が爆発しちゃう」ってことでしょうか。

久野

そう思います。中国共産党の求心力を保つ上で、「生活が良くなっていくことが大事だ」って気付いたんじゃないですか。

安田

つまり共産党トップは国内の不満をなくすためにやってると。世界を牛耳ろうとして経済を伸ばしているわけじゃなく。

久野

両方だと思います。世界で一番っていうのが、また中国へのロイヤリティーを高めるじゃないですか。

安田

確かに。

久野

究極は自分たちのためにやってる。

安田

自動運転とAIと、あと宇宙もばんばんやってますね。完全に日本は遅れてる感じ。国内では中国をまだ下に見てる人もいますけど。

久野

もう、とんでもなく上に行ってます。

安田

そうですよね。もう追いつけないですね。韓国にも生産性で抜かれたし。

久野

10年後には「中国に出稼ぎに行かなきゃいけない」っていう。私はそれを一番恐れてます。

安田

それって恐ろしいことなんですか。

久野

私はいろんな労働問題を見てますから。中国の実習生に対する日本の経営者の扱いがひどかった。

安田

仕返しされる?

久野

中国の人からしたら「ふざけんな」って感じでしょう。

安田

もともと中国は日本の師匠みたいな国ですからね。たまたま明治以降に日本が伸びて、その間ちょっと中国が伸び悩んだだけで。

久野

歴史的にみたら一瞬ですよ。

安田

漢字やいろんな文化も教えてもらって。この100年、200年が異常だっただけで、元に戻ったとも言えるんじゃないですか。

久野

中国の人はそう考えてるみたいですね。長い歴史の中では必ず中国が勝つって。

安田

人口の多さとか、国内の資源とか、商売に対する貪欲さとか、どれを取っても「よく勝てたな」って感じがします。

久野

けっこう勤勉ですし。

安田

コンビニの中国人はやる気なさそうですけど。トップレベルの人材はめちゃくちゃ頑張るんでしょうね。

久野

すごい成長意欲ですよ。

安田

今後タクシー業界はどうなると思いますか。日本はGOみたいなアプリで便利になってますけど。いずれ日本も無人化しますか。

久野

世界が全部無人になった後に無人になるんじゃないですか。

安田

いちばん最後ですか(笑)

久野

キャッシュレスの現状を見てるとそんな気がします。

安田

日本は「おもてなし精神」でずっと人が運転するとか。逆張りで。今さらテクノロジーで中国には勝てないし。

久野

最終的に無人運転の方が安全で快適な時代が来ちゃう気がします。

安田

確かに。「安いし、事故もしないし、快適だし」ってなると、ユーザーはそっちを選んじゃいますよね。

久野

普通に考えたらそうなると思います。

安田

国が規制して守っていくんでしょうか。タクシー業界を。

久野

そうでしょうね。でも新しいことにトライできないと、世界市場を全部取られる可能性がある。これは痛いですよ。車体ごと需要が取れないってことですから。

安田

タクシー業界を守ってたら日本車が売れなくなっちゃうと。

久野

全部つながってますから。

安田

戦後のガンガン伸びていた時期は規制緩和もしてたんでしょうか。

久野

そうですね。今はやっぱり雇用に関する規制ですよ。タクシーの初乗り運賃も規制があるじゃないですか。

安田

ありますね。

久野

タクシー運転手の仕事を守ってるうちに、逆に業界の首を絞めちゃってる。

安田

つまり雇用に対する忖度みたいなものですか。テクノロジーの遅れというより。

久野

そこが大きいです。たとえば社労士事務所も社会保険の手続きが独占代理業務なんですね。

安田

はい。

久野

正直、僕はなくなってほしくないんです。めちゃくちゃありがたいんですよ。だって手続きはそんなに難しくないのに、僕らしか代行できないことになっていて。

安田

儲かるようになってると。

久野

もし自由化したら、モンスター企業みたいなところがどーんと請け負って、ITスキルで今の10分の1のコストでやるようになる。

安田

日本は「あえて面倒くさくして仕事を生み出す」ってことをやりますよね。それが経済成長に結びつかない原因でしょうか。

久野

国が予算を付けるのも一時的にはめちゃくちゃ大事なんです。ただそれは一定期間でやめなきゃいけない。日本はドーピングを続けてる国なんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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