第9回 地方との付き合い方

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第9回 地方との付き合い方

安田
酒井さんは地方での経営にすごく力を入れられていると思うんですが、都市と比べて実際のところはどうなんですか?家賃も人件費も安いし、よっぽど都会より儲けやすいって言う人もいるんですけど。

酒井
企業秘密、と言いたいところですけど(笑)。「実際のところ、競争環境は東京と比べると緩いですね。
安田
やっぱりそうなんですね。

酒井
その競争の中でも、「アウトサイダー」として外部の人のままで参戦するのか、「インサイダー」としてコミュニティの内側に入ってやるのかは一つのポイントかなと思います。
安田
なるほど。ちなみにそこに「元官僚」というバックグラウンドは関係してくるんですか?

酒井
そうですね。例えば、地方で最初に入った九州の会社には、私はM&Aで入っているんです。そういう意味では外の人間なんですが、私が元役人だったということで、地元の人は「地方創生の一環で買ってくれた」っていう印象になったみたいですね。「東京のよそ者に買われた」ではなく。
安田
なるほど。受け止め方に大きな違いがあると。

酒井
ええ。ゴールドマンサックスが買うか、私のような経産省出身が買うかで、同じことをしても見え方は全然変わってくるんだと思います。
安田
確かにそうでしょうね。そういえば、「地方のコミュニティへの入り方」って話題で言うと、どこかの自治体でニュースが炎上した「暮らしの七か条」みたいなのがあったと思うんですけど。

酒井
ありましたね。「ここに暮らすんだったらこのルール守りなさいよ」みたいな。
安田
コミュニティの中に入ってしまうと、そういう「しきたり」みたいなものがあったりして、動きにくくなったりはしないんですか?

酒井
うーん、動きにくいと言うより、ロジックが重要にはなりますね。どんな事業をやるにしても、今まで発注していた会社があるわけで、それをどういうロジックでひっくり返すのか。
安田
なるほど。東京だとあんまり気にしたことないですからね。いい条件があればどんどん発注先を買えるのが当たり前というか。

酒井
そうですね。地方だと、競合してる取引先同士が知り合いだったりするんですよ。商工会だったり色々なとこで顔を合わせるので。だからまあ、「Aを裏切ってBに行ったな」みたいなことがすぐバレちゃうわけです。
安田
ははあ。私の肌感覚でも、地方の方は「長く付き合うこと」を前提に考えている感じがあります。だから必然的に、新規の開拓にもいろいろ気を使う必要が出てくると。

酒井
そうだと思います。完全に新しいサービスなら別なんですけど、競合からの置き換えになると、アプローチの仕方は考えないといけないですよね。
安田
そうですよねえ。ちなみにそういう場合、どうやったら置き換えてくれるんですか?

酒井
実際、そう簡単ではないんですけどね。例えば私の年代だと、地方では親御さんが高度成長期に起業されて、その2代目3代目、っていう方が多いんです。で、その年代の方々って、実は「地方だけではうまくいかない」ってことが分かってるんですよ。むしろ東京の知見を知りたいと思っている。
安田

ああ、そういう方たちと仲良くなれれば、置き換えのきっかけも掴めそうですね。


酒井
そうなんです。地方の情報格差の問題はよく話題になりますけど、だからこそ危機感を持ち、積極的に情報に接しようとしている方もいるわけで。
安田
確かに、新しいものに乗り換えてもらおうとすると、情報感度のいい人を狙わざるを得ないですよね。その意味で、代替わりしている会社を狙うのは一つの方法なんですね。

酒井
そうですね。彼らは東京に出張をしたり、同じように感度のいい人と仲良くなったりして情報を集めているので、地域に直接行って話をするとやっぱり喜ばれます。
安田
わざわざその地域に行くことが重要なんですね。

酒井
ええ。その地域に行って、ちゃんと顔を突き合わせて話をすることで、「よし、じゃあ一緒にやろう」っていう気持ちになってくれるので。
安田
最近はオンラインでも話ができますけど、自分の地元まで来てくれたっていうことで、地域の方の気持ちがだいぶ変わると。

酒井
そうですね。仲間だと思ってもらうことで、「普段一緒にいる人がこんなに視座の高いことを考えてるんだ。俺も頑張ろう」とか、「自分たちの仲間がこんな活躍してるんだ。じゃあ俺は何をやろう」って思ってもらうことが大事な気がしますね。
安田
なるほど。仲間になるからこそ触発されるんですね。ちなみに「暮らしの七か条」があったところも、人に来てほしいはずですよね。なのに、何であんなややこしいことをやってるんですかね。

酒井
本質的には「来てほしくない」というのがあるんでしょうね。
安田
え、そうなんですか? そのわりに自治体に対しては「人口増やせ」なんて要求をしてるじゃないですか。そこに矛盾は感じないんですかね。

酒井
感じてないと思いますね。「言うことを聞いてくれそうな人を集めたい」というのが基本だと思うので。
安田
ああ……そう考えると、役人さんの仕事って大変ですね。

酒井
まあ、そうですね(笑)。地方創生でよく言われるのは、「若い人が東京に出て行くのを止めなければいけない」って話なんです。でも、話に出るだけでほとんど何もできていない。
安田
なるほど。出ていく方を止められないから、全然関係ない人を外から呼ぼうっていう話になるんですかね。
酒井
「地方の独自ルール」を聞いて、地元の高校生たちが「よし、このまま地元で頑張ろう」と思うかというと……。結果、思わない人が出て行って、残った人の中で小さな事業を回している感じはありますよね。
安田
一方、外から人を呼ぶにしても、もっと魅力的なコンセプトが必要ですよね。例えば、今タバコ吸う人はかなり減ってますけど、ヘビースモーカー特区みたいなの作っちゃうとか。

酒井
その発想は面白いですね。
安田
ですよね。私いつも思うんです。なんで人を呼びたい地方が「ミニチュア都心」みたいなことばっかりやってるのかと。都心のマネをして勝てるはずがないのに。

酒井
仰る通りです。そこはもう自治体の首長さんの意識次第ですね。
安田
そうですか。「ミニチュア都心」以外だと、やっぱり地元の人が反対するんでしょうね。

酒井

と言うよりも、今まで「ミニチュア都心」の方針でやってきたので、先ほど安田さんが仰ったような「一点突破型」に共感しづらいんだと思います。結果、どこの自治体も同じように「日本のシリコンバレーを目指す」みたいなことを言い出すわけです。

安田

「日本にはまだシリコンバレー的な場所がない。だから地方にもチャンスがある!」って考えなんですかね。


酒井
…ということを言ってる自治体が、1000ぐらいありそうなんですよ(笑)。だから全く逆の「嫌われてるスモーカーのための街を作ります」みたいな話は、けっこう面白い切り口だと思います。

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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