第18回 ガーメントデザイナーが考える「庭の境目」

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第18回 ガーメントデザイナーが考える「庭の境目」

安田
私は境目研究家なので、やっぱり「庭の境目」について聞いてみたいんです。つまり、「庭」と「外」の境目ですね。

中島
なるほど。おもしろそうです。
安田

個人的に庭って、「仕切られた空間」に作るものというイメージがあるんです。コンクリートブロックやレンガで塀を造ったり、生垣のように木で壁を作って、その内側に作っていくものというか。


中島
わかります。まず囲んでしまって、それから作るイメージですよね。
安田
そうそう。でもdirect nagomiさんが作る庭って、ブロック塀も生垣もない場合が多いですよね。それなのに、ちゃんと「庭」という感じがする。塀も壁もないのに、なぜそう感じるんでしょう。

中島

確かに我々は、塀や壁で塞いでしまうようなことはしませんね。でもかといって、すべて吹きさらしにするわけでもありません。一部に目隠しとなるような木を植えたり、高低差を使って自然な境界を作ったりするわけです。

安田
ああ、なるほど。確かにそういうものがなければ、外から丸見えになってしまいますものね。でも、機能としては別に生垣でもいいわけですよね。なぜ手間をかけてまでそういうデザインにするのでしょうか。

中島
「自然に近い庭」を目指しているということが一番の理由ですが、もう一つあるのは、生垣って手入れにすごくコストがかかるんです。だからできるだけ使わない。
安田
へぇ、そうなんですか。つまり住人の負担になってしまうと。ちなみに生垣の手入れって、どういうことをするんですか?

中島
本当に綺麗に仕上げようとすると、機械では刈らずにハサミで「縮める」という作業が必要になります。機械で刈ると、どうしても切り口が目立ってしまうんですよね。だから手作業で丁寧に整える必要があるわけです。
安田

ああ、なるほど。髪の毛でもバリカンで雑に刈るのと、ハサミで丁寧に切るのと、仕上がりが全然違いますもんね。


中島
まさにそのような感じです(笑)。とはいえ、そういう丁寧な手入れをしたとしても、生垣って成長が早い種類を使うことが多いので、またすぐ同じ手入れをしなければならなくなってしまう。結局それが間に合わず、ボサボサになってしまうことも多いんですよ。
安田

確かにボサボサになっている生垣はよく見かけますね。そういう状況になってほしくないからこそ、手間をかけてでも自然な目隠しを実現しようとすると。


中島

仰るとおりです。個人的には、家の中から外に人がいることが少し見えるくらいのバランスを目指していますね。

安田
なるほど。一方で、塀や壁っていうのは防犯機能の一つでもありますよね。空間が空いていることで、外から人が入りやすくなったりはしないんでしょうか。

中島
確かにそうとも言えます。ただ、完全に視界が塞がれている塀や壁の方が、むしろ危険だったりもするんです。
安田
ほう、というと?

中島

そもそも、相当高い壁でない限り、プロの泥棒は簡単に登れてしまいます。で、一度中に入ってしまえば、塀や生垣は自分の姿を隠してくれるありがたい「壁」になる。

安田

ああ、そうか。確かにそうですね。隙間が開いている庭の方が、そういう泥棒の動きも見えて逆に安全だと。


中島
そういうことです。塀や壁をしっかり作ってしまうと、本当の死角になってしまうということなんですね。一度入られてしまえば、やりたい放題とも言えるわけで。
安田
なるほど、目からウロコでした。結論、あえて空間をあけて木で目隠しをする中島さん方式の方が、維持コストも安く安全性も高いということですね。

中島
はい。そう考えてご提案させていただいております。
安田
ところで中島さん方式の庭だと、隣の家との土地の区切りがわかりづらくなりませんか? 塀や生垣みたいに「ここからここまでが私の土地です」って印がないわけでしょう?

中島

ああ、なるほど。それでいうと、敷地の境界線として低く石やブロックを積むことはありますよ。でも確かに、明確に境界がわかるようなものではないかもしれません。

安田

ふ〜む、例えば隣家に塀がある場合もありますよね。隣家の人からすると「自分の家の塀を隣に使われている」という感覚になりませんか?「うちはちゃんと塀を作ったのに、隣はなぜ作らないんだ」と。


中島

ああ、なるほど。でも、今のところそういった苦情はありませんね。むしろ個人的には、隣家に塀があるならこちらは建てない方がいいと思っています。

安田

え? それはなぜですか?


中島
塀って、土地の境界ギリギリに建てるわけじゃなく、3~5㎝余裕を持って設置していくんです。つまり塀と塀との間にはどうしても隙間が空いてしまう。そうすると、間に草が生えても誰も抜けない状態になってしまいます。
安田

ああ、確かにそういう場所を見たことがあります。塀と塀の間の人が入れないほど狭い隙間に草がぼうぼうに生えているような(笑)。


中島
ありますよね(笑)。そういうことを避けるためにも、隣のお家が既に塀を作っている場合は、こちらはなるべく作らないようにしています。必要な時に境界線がわかればいいわけなので。
安田

なるほど。ちなみに「中島さん式の庭の境目」には他にメリットがあったりしますか?


中島
お庭が広く感じる、というのはあります。景色がそこで止まってしまうか、その先もつながって見えるかでかなり印象は違うので。
安田

ああ、なるほど。自分の家がすごく広く感じるわけですね。そう考えると、隣の家も同じく塀がない方がよりよい気もしてきます。「庭は囲まれているもの」という認識が、今日だけで随分変わってしまいました(笑)。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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