第12回 3店舗経営が生み出す、売上相乗効果

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第12回 3店舗経営が生み出す、売上相乗効果

安田

スギタさんは現在『ハーベストタイム』『スギタベーカリー』の2店舗を経営されています。でも確か以前、もう1つ別のお店を経営されていませんでしたっけ?


スギタ

はい。『ワンダーストーブ』というカフェをやっていました。

安田

カフェということは、ランチタイムのみの営業?


スギタ

えっと、ランチとモーニングですね。ディナータイムはやっていませんでした。

安田

もともとハーベストタイムでランチをやっていたけど、ケーキ1本に集中するんだってことでランチ営業を止めたんですよね? それなのになぜまたランチをやろうとしたんですか?


スギタ

いろいろ理由はあるんですけど…1番の理由は、ケーキ屋のすぐ裏にめちゃくちゃ条件の良い物件が出たからです(笑)。

安田

パン屋さんを始めた時と同じパターンだ(笑)。


スギタ

そうなんですよ(笑)。いい場所に空き物件が出ちゃったから(笑)。

安田

それはいつ頃だったんですか?


スギタ

ケーキ屋さんのオープンから7年目ですね。6年目にパン屋さんをオープンさせて、直後にランチを止めていたんですけど、そこからわずか1年でカフェをオープンさせてしまいました(笑)。

安田

すごいですね(笑)。


スギタ

とは言え、実はもともとその空き物件は、ケーキ屋さんの事務所みたいな形で借りようとしていたんですよ。

安田

ほう、そうだったんですか。


スギタ

というのも当時はお店からちょっと離れた場所に、休憩室や更衣室スペースとして1部屋借りていたんですね。だからその物件を借りられたらケーキ屋さんのバックヤード的に使えるぞと思って。しかも駐車場も15台分くらいスペースがあったんですよ。

安田

ははぁ、それだけあれば、ケーキ屋さんにお客さんがたくさん来ても駐車場に困らないですね。


スギタ

まさにそうなんです。ただ、バックヤードとして使うには、あまりにも物件が広すぎまして(笑)。

安田

どれくらいの広さだったんですか?


スギタ

全部で64坪だったんで、211平米くらいですかね。

安田

それはなかなか広い(笑)。半分だけ借りればよかったじゃないですか。


スギタ

僕もそのつもりだったんです。でも不動産屋さんから「1階部分全部借りてもらわないと困る」って言われちゃって(笑)。

安田

そうだったんですね(笑)。


スギタ

じゃあどうしようか、と考えた時に、ふと思ったんです。「そういえばいまだにランチの予約をしたいと連絡してくださるお客様が多いな」って。

安田

そうだったんですか。でも、その時点でランチをしなくなってからもう1年くらいは経っているわけですよね?


スギタ

そうなんですけど、ありがたいことにまだ毎日のように問い合わせが来ていて。それだけお客様に望まれているんなら、もう1回ここでランチをやってみようか、となったわけです。

安田

なるほど。お客さんからのニーズに応えたわけですね。


スギタ

そうですそうです。あとは、ハーベストタイムの時の「成功モデル」が、店舗をまたいでも実現できるんじゃないかという思いもあって。

安田

というと?


スギタ

もともとハーベストタイムの新規集客は「ランチ」でした。で、ランチ後に食べたケーキを気に入ってくださったお客様が、そのまま「ケーキ」のファンになって、今度はケーキだけを買いに来てくださるようになった。

安田

ランチをきっかけにして、ケーキのリピーターを増やしていったんですね。


スギタ

ええ。で、ランチでは焼きたてパンも提供していたので、「このパン、売ってくれないの?」と言われることが増えて、結局パンも販売していたんですよ。

安田

なるほど。すべて『ハーベストタイム』という1店舗で、ビジネルモデルが成功していたわけか。


スギタ

仰るとおりです。だから「ランチが食べられるカフェ」を始めることで、「食後に食べたケーキは、目の前のケーキ屋さんで買えます」「この焼き立てパンは、徒歩数分のところにあるパン屋さんで買えます」という流れができるかなと思ったんです。

安田

つまり、「カフェが新規顧客をどんどん開拓して、ケーキ屋さんとパン屋さんのリピート客にしていく」という狙いだったんですね。


スギタ

仰るとおりです。その相乗効果で、売上と利益が最大化したらいいなと。結果として、『ワンダーストーブ』のランチは連日満席がずっと続くほど、新規顧客の開拓には大きな役目を果たしてくれました。

安田

ほう。そんなに流行っていたのに、なんで止めちゃったんですか?


スギタ

えっと…考えたらわかるだろ、と言われそうなんですが…ランチをやりながらケーキやパンを作ることが、めちゃくちゃ大変だったからです…(笑)。

安田

それ、ハーベストタイムでランチを止めたときと同じ理由じゃないですか(笑)。そこの解決策は考えずに3店舗目を始めていたんですか!(笑)


スギタ

耳が痛い(笑)。お客様からの「ランチを食べたい」というニーズに応えたかったので、あんまり考えず始めちゃったんですよね(笑)。

安田

笑。ちなみにワンダーストーブはどれくらいやっていたんですか?


スギタ

それでも5年くらいはやりましたね。

安田

すごい! それだけ続けられていたということは、利益もしっかり出ていたんですか。


スギタ

ワンダーストーブ単体ですごく儲かっていたということはなかったですけど、3店舗トータルでみたときには、利益はしっかり出ていました。

安田

なるほど。とは言え、相当忙しかったんじゃないですか?


スギタ

そうですね。シーズンごとに新しいケーキを考えたり、始めたばかりのパン屋のことも考えなければいけないことが多かったり。それでいてランチは連日満席という状況で。

安田

それは相当疲弊しそうですね。


スギタ

まさにそうでした。5年やった頃にちょうど僕も40歳になって。で、これからさらに5年10年とできるかなと考えた時に、「もうこれは充分やった」と思えて、閉店することにしました。

安田

そういう経緯だったんですね。…ん? カフェを閉めてしまったということは、事務所はまた移転ですか?


スギタ

いえ、それがその頃には物件の半分だけ借りれるようになっていて(笑)。なので、事務所や休憩室、倉庫なんかはそのままケーキ屋さんのすぐ裏にあります。

安田

それは良かった(笑)。それにしてもスギタさんの「集客アイディア」や「コンセプトメイキング」は素晴らしいですよね。なんかそういうコンサルティング業も始められたらいいのに。


スギタ

いや〜、それは僕には荷が重いです(笑)。

安田
絶対できると思いますけどね。いずれなにかでコラボのご提案をしたいと思いますので、その時はぜひ一緒に新たなビジネスモデルを作り上げましょう!

対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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