第292回 最低賃金はなぜ県単位なのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第292回「最低賃金はなぜ県単位なのか」


安田

愛知県の最低賃金が50円引き上げになって1077円。ついに岐阜も1000円を超えたそうですね。

久野

岐阜は51円上げたんですけど。じつは「50円上げなくちゃいけない」ということは決まっていて。

安田

そうなんですか。

久野

はい。あとは各都道府県で自由に決められるんですよ。岐阜は保守大国だったのに51円上げたっていう。この1円の頑張りを岐阜出身としては讃えたいです(笑)

安田

この1円がすごいんだと(笑)

久野

本当に保守的なところなので。

安田

これで愛知が1077円になり、岐阜が1001円になりました。

久野

そうですね。まだ結構開きはあるんですけど。

安田

知事は「最低賃金が安い県」というのを恥ずかしいと思わなくちゃいけないです。社長だったら社員の給料がめちゃくちゃ安いって恥ずかしいじゃないですか。

久野

確かにそうですね。

安田

名古屋に近い岐阜県民は地元で働かないんでしょ?みんな名古屋に出稼ぎに行っちゃうから。

久野

そうなんですよ。岐阜に住んではいるんですけど。

安田

住んでるだけ。仕事はもっと稼げる愛知に出ちゃって。優秀な人材がどんどん流出しちゃいますね。

久野

岐阜って有効求人倍率がめちゃくちゃ高いんです。要は採用はしづらい。

安田

そりゃそうでしょ。ちなみにまだ最低賃金1000円を超えていない都道府県ってあるんですか?

久野

いっぱいありますよ。

安田

岐阜が最低じゃなかったんですね。

久野

違います!岐阜県民に怒られますよ。東北とか中国地方とかはもっと低いですね。

安田

なるほど。鳥取とか。

久野

岩手が1番安いですね。鳥取や島根もかなり安いです。

安田

今さらですが最低賃金って県単位なんですか?

久野

県単位です。

安田

同じ県の中でも状況がだいぶ違う気がしますけど。

久野

そうなんですよ。東京なんて大変ですよ。小笠原諸島の父島とかも東京23区と一緒ですからね。

安田

なんと。それめちゃくちゃ大変じゃないですか。東京の西多摩には過疎地の村もあるのに。

久野

もう全国一律にすべきだと思います。

安田

確かに。やるなら一律にしないと。かなり不公平ですよね。

久野

時差もないのに変ですよ、日本って。

安田

仮に全国一律で最低賃金1200円になると破綻するお店や会社が出てきますか?

久野

地方はそうなるんじゃないですか。

安田

周りもみんな高くなるわけじゃないですか。自社だけが不利というわけではないですよね。みんなで価格アップすればいいだけだと思いますけど。

久野

みんなで価格アップすると行く店と行かない店に二極化するんです。

安田

価格アップしなくてもそうなりそうですけど。

久野

そうなんですけど。瞬間風速的に倒産が増えるわけですよ。その後正常化すると思いますけど、そこを容認できない。

安田

なるほど。その責任を誰も負いたくないと。

久野

そういうことです。

安田

リーダーにあるまじき姿ですね。ちなみに最低賃金で雇ってる職場って今でもあるんですか。

久野

いや、結構多いですよ。正社員でも最低賃金の人がいますから。

安田

え!最低賃金で正社員になる人なんているんですか?この人不足の時代に。

久野

固定残業をつけるんですよ。40時間とか50時間とか。それで月給26〜7万に見せて出すんです。でも割り戻してみると最低賃金になってる。

安田

なるほど。最低賃金と気づかせずに最低賃金で雇っていると。

久野

さすがにもう限界にきてると思いますけど。

安田

ちなみにアメリカは最低賃金が無いのに給与は増えていってますよね。市場の競争原理で。それが一番健康的なんじゃないですか。

久野

たぶん政府はそういう方向に持っていきたいんですよ。だから最低賃金を上げて雇用を流動化しようとしてる。

安田

給料が安い人は早く見切りをつけて転職しなさいと。

久野

「転職したら給料が増えるよ」ってデータを厚生労働省が出してますから。もうこの流れは止められないです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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