その147 ライダースおじさん

以前、週末の昼間に電車に乗っていたところ、ちょっとしたトラブルを目撃しました。

ジャージを着た運動部らしき高校生くらいの男子が3人、席を並べて座っていたのですが、スマホを見せあいながら楽しげにきゃいきゃい騒がしく盛り上がっていました。
そこへ、その隣に座っていたおじさんが突然説教を開始したのです。

「迷惑だ」というだけでなく、学校はどこだとか、名前はなんだとか、さらには聞き出した学校名から、「その学校なら君たちはとても賢いのだろうに……」など、おじさんのイヤなところを煮詰めたような数分間のダル絡みで、車内の空気はどんよりと淀みました。

そのおじさんは外見が印象に残る人でした。

フェルトのハットとマスクで顔はよく見えませんでしたが、年齢は明らかに50は越え、おそらく60前後。細いジーンズと、なによりバチっとしたライダース型の革ジャケットを着ていました。

おじさんが愛好しているジャンルがバイクなのかロックなのかはわかりませんが、とにかく、本格的なライダースジャケットというのは一定以上のこだわりがなくしては着ていられないものです。
スーツのように体にフィットさせて着るものなので、ぽこっとお腹が突き出してはいけません。体型維持が必要です。また、革というのが本来服に向いていない素材です。秋口では暑く、しかし保温機能にとぼしいので冬になったら寒いといいます。水分が苦手で、さらに、綿やウールよりはるかに重いです。
なぜそんなジャケットが昔からあるのかといえば、バイクに乗る際に防風効果があるためです。加えて、最悪、転んだときに体を守る役目に期待してのものです。

かように、なぜライダースについて長々述べたかといいますと、電車移動にこれ以上不似合いな衣服はないということです。陸サーファーは黙っていればわかりませんが、電車ライダーは一目瞭然です。

わざわざ窮屈で重くて温かくもないジャケットを「かっこいいから」の一点で愛好するのは個人の自由で、美学でもあります。しかし、それで電車に乗るのがダサいことを理解することもまた美学の一部なのです。

迷惑を是正しなければ……という正義感を持ち合わせていても、それをクレーマーじみた攻撃で体現してしまうバランスの悪さと、電車ライダーしてしまうセンスのなさは通底したものがあるのではないか、と、はた目には思えてならないのでした。

あと、やせた年寄り相手でも、高校生たちが万一キレたらどうするつもりだったんだろ。相手は運動部ですぜ。
 

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

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