第76回 形骸化しないクレドの作り方

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第76回 形骸化しないクレドの作り方

安田

少し前に「クレド」って流行ったじゃないですか。あれってどういう経緯だったんですかね。


藤原

ああ、流行りましたね。リッツ・カールトンとかジョンソン&ジョンソンがクレドを使ってると知って、それを真似した会社が一時期すごく増えたと記憶しています。

安田

なるほどなるほど。ただ個人的には、クレドを印刷して社員全員に持たせて毎朝唱和する、みたいなのはあんまりピンと来ないんですよ(笑)。


藤原

わかります(笑)。ああいうのは「経営理念とクレドがごっちゃになっている」ように見えてしまいます。

安田

ほう、つまり経営理念とクレドは別のものだと。


藤原

ええ。「経営理念」はトップダウンでいいと思うんです。つまり、オーナーや経営者が考えて外に示すもの。でも「クレド」はボトムアップで作って、現場の人たちが「自分たちのもの」として腹落ちする形にしないと意味がないと思っていて。

安田

ああ、なるほど。クレドがルール集みたいになってるところも多そうですけど、本来はそうじゃないと。確かに30も40も行動ルールが並んでいて、それを丸暗記させるなんてなんか変ですもんね。


藤原

そもそもクレドって、会社が向かっていく方向を示す「理念」が最上位にあって、その方向にどういう価値基準で進むのかを定めるものなんですよ。就業規則のようなルールとはまた違うもので。

安田

理念をわかりやすくかみ砕いたものということですか?


藤原

というよりは、自社がどうあるべきか、その判断軸を言語化したものだと思います。そのためには当然ステークホルダーの存在を意識する必要があって。「従業員」「顧客」「取引先」「家族・地域社会」「株主」の5つがそれにあたります。

安田

なるほどなるほど。その人達にとってどういう会社であるべきかを定めたものだと。


藤原

そうそう。地図のようなものですよね。でも細かい道順まで書かれているわけではないので、自分で考える余白もあるというか。

安田

ああ、なんとなくわかってきました。ちなみにいいクレドとそうでないものの見分け方ってありますか?


藤原

うーん。パッと見分けるのは難しいかもしれません。というのも、内容が20個あったらダメ、3つならいい、とかではないので。それより大事なのはトップダウンで作ったのか、ボトムアップで作ったのかですね。

安田

ああ、なるほど。経営者が勝手に作って配っただけのクレドでは浸透しないと(笑)。


藤原

まさにそういうことです(笑)。形だけ整えても、結局「経営陣が勝手に決めたもの」と思われたら意味がない。だからこそ、ボトムアップが重要なんです。

安田

でも大企業でそれをやるのって、めちゃくちゃ大変じゃないですか? 関係者全員に意見を聞いて回るわけにもいかないだろうし。


藤原

ああ、ポイントは「現場の声をちゃんと拾っているか」なので、たとえば先程挙げた「顧客」のことを考えるなら、「長く付き合いたい顧客」にヒアリングをすればいいわけです。

安田

ああ、なるほど。全員の意見を聞いて平均値を取る、みたいなことではないと。


藤原

仰るとおりです。かといって「役職者だけで勝手に決めました」では意味がない。他人を従わせるために作ったクレドは機能しないので。

安田

そうか。結局、クレドは人に押しつけるためのものではないということですね。理念が示す方向に対して、自分たちはどういう価値観で進むかを示すものだと。


藤原

そういうことです。こうして考えてみるとすごく重要なものですよね。

安田

とはいえですよ、理念がそもそもズレていたりすると、本末転倒になっちゃいませんか。例えば「世界の物流を支える」なんて言いつつ、トラックが3台しかなかったりして(笑)。


藤原

いや、本気で「世界の物流を支える」と思っているなら、今は3台でも、そこに向かう道筋を描けばいいんです。大事なのは「どうやって支えるのか」という自社らしさを言語化することなので。

安田

ははぁ、なるほど。その「自社らしさ」を突き詰めていくと、自然とクレドにつながっていくわけですね。


藤原

ええ。そういう意味では、理念とクレドは別物ではあるのだけど、必ずつながっているものでもあるわけです。

安田

なるほどなぁ。でもクレドを作る過程で、矛盾が生じることはないんですか? 例えば株主と従業員やお客さんと従業員など、利益が相反することもあるわけじゃないですか。


藤原

もちろんあるでしょうね。ただそれがクレドの非常に面白い部分でもあって、そういうジレンマの中でこそ「何を選ぶか」を考える軸として活きてくるんです。

安田

ああ〜、おもしろいですね。そういう矛盾やジレンマを前に「会社としてどうしていくのか」を決めていくわけですもんね。すごくいい議論ができそう。


藤原

そうそう。それを考えること自体にすごく大きな意味がある。

安田

なるほどなぁ。でも、現実的にはなかなかまとめるのが大変そうですね。従業員の給料を上げたら、短期的に見たら株主の利益は減る。だからこそ長期的なビジョンをしっかり描いて、株主を説得する必要があるわけじゃないですか。


藤原

ええ。まさにその長期的な視点が重要になります。私がよく使う例えに、「1000円の商品を買ったお客様に対して、新幹線でお詫びをしに行くことが合理的か」というのがあるのですが(笑)。

安田

おもしろいですね(笑)。どう考えても非合理には見えるけど、それをしたことで後から100万円の利益になるなら得ですもんね。…でも上場企業のように3ヶ月ごとに黒字を求められる会社だと難しいだろうな。


藤原

確かに、そういう場合は難しいと思います。でも不可能ではない。例えばAmazonも、長い間ずっと赤字でしたが、投資家が「それは未来への投資だ」と理解していたから株価は下がらなかったわけです。

安田

そうかそうか。つまりクレドを作って機能させるには、「共感してくれる株主を集める」ことが大事だということですね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

Twitter

1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから