靴というものについて、個人的にかねてから不満に思っていたことがありました。
それは、「自分の足の形と靴の形がぜんぜん違う」ということです。
普通の靴のつま先がどれも丸く収まっているのに対し、わたくしの足は指先にいくほど広がっていて、まあブサイクな形であることは否定しませんが、靴には余るところがある一方、少し狭いと中で小指がぶつかって痛みにつながることが過去にありました。
靴の中で余りが明確に出るのは先端部分で、これは「捨て寸」というそうです。下り坂を歩くときなどに、靴の内部で足が前に滑ることが起こるため、そういったときに必要なスペースを設けておくのだそうです。
靴と足の形がマッチしないことを、その理屈でわたくしも一定納得していたのですが、あるとき気づいてみると、それだけで説明できないことがいくつかありました。
つま先が余っていても、小指が自由にならないことは往々にしてありますし、それ自体は足が幅広であることに起因するとして、もともと足幅が狭い女性に対してはより極端につま先がすぼまった靴がより正式なものとされていたりして、
「もしかして、靴とは人間の足に合わせるつもりが最初からないものでは?」
という結論にいたりました。
それはそうです。
男性用でも女性用でも、一般にちゃんとした革で作られたフォーマルやビジネスの靴であれば、目的は一にも二にも「カッコ」であって、ラクをしたければサンダルでもスニーカーでも履けばよいのです。
それなら仕方ないな……と思っていましたが、何年もスニーカーばかり履いている昨今、気づいたら、スニーカーでも痛くないだけで小指が靴と当たっていることには変わりありませんでした。
形だけ見てみると、先端が革靴ほどはほっそりしていないだけで、どこのスニーカーだって細い楕円形を描いているのには違いありません。末広がりの自分の足型とマッチしないことは革靴のときと同じで、なんなら、細い楕円形のつま先を持つ人間がそもそもどれだけ存在するのか、という話です。
カッコ優先の革靴とは異なり、機能性を第一義としたスニーカーが結局革靴と大差ない形状を取っている、という事実に基づくと、ある仮説が浮かび上がります。
「もしかして、スニーカーもカッコつけているだけではないのか……」
最近になり、そんな長年のわたくしの疑念をプロダクトとして解決してくれる靴に出会いました。
創業10年の新興ブランドによる、既成概念にとらわれず大胆に人間の平均的な足型に近づけた、長すぎる捨て寸もなく、小指もまったく当たらないスニーカーです。
久しぶりに、靴に感動しました。
形はカッコ悪いです。