地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第101回 価値が下がらないのは「なくてもいいもの」?

確かにそうなんですけどね(笑)。ちなみに私が思うに、「人を楽にする発明」っていうのは必ず値段が下がっていくんじゃないかと。洗濯機とかエアコンとか、生活を便利にするものってすごく大きなニーズがあるから一気に広がるじゃないですか。で、こういう商品は必ず値段が下落していく。

そうなんです。「便利」という理由で買うものは、同じ機能ならできるだけ安い方がいいじゃないですか。一方で、「便利」じゃなくて「喜び」とか「幸せ」が理由で買うものは、あまり値段が下がらないイメージがあるんです。例えばスギタさんの作っているようなこだわりのケーキとか、あるいはアート作品みたいなものとか。

確かに。食べられれば何でもいいとフライパンのまま食べちゃう人もいれば、2万円もする高いお皿に丁寧に盛り付けて食べる人もいる。後者の方にとってのお皿のようなものは、価値が下がらない傾向にありそうです。

そうそう。大きい会社は基本的に「便利」な商品を万人に向けて売っていくわけですが、中小企業はそこを真似しちゃいけないと思うんです。「なくてもいいけどあったらすごく嬉しいもの」というか、「万人受けはしないけど一部の人に深く刺さるもの」を追求していかないと。

それでいうと、まさにケーキやパンも同じかもしれません。大手メーカーのパンは多くの方の口に合う味で、ものすごく安い。だからといって個人店がその方向で勝負しても勝ち目がないわけで、やっぱり独自の付加価値を見つける必要がある。

そうですよね。「空腹を満たしてカロリーを摂取するもの」としての食事と、「食べることで心が豊かになる、明日からまた頑張ろうと思えるもの」としての食事は、まったく別のものというか。前者的な考え方でいえば、スープにとことんこだわったラーメンとか、別に必要ないじゃないですか。

安田さんは本も出されてますけど、出版業界でもそういうことってありそうですよね。ベストセラーでたくさん刷られた本は、古本屋さんに売ろうとしても1円とか言われて。

必要なものを作ろうとすればするほど、小さな会社は価格競争に巻き込まれて苦しくなっていく。そう考えると、万人にウケなくても、100人中10人がすごく喜んでくれるものを作ることが、生き残るコツだと思うんです。

よく言われるマーケットインかプロダクトアウトかみたいな話でいうと、大衆マーケットを狙うのではなく、めちゃめちゃコアだけど刺さるものを作ると。

ええ。誰かが欲しいって言うから作るわけじゃなくて、自分が作りたいものを作っていたら、欲しいという人が現れてくるってことだと思うんです。でも商売である以上、ある程度お客さんが欲しいものを当てていかないといけない難しさはありますけどね。

僕の場合は自己分析が強すぎるというか、意識し過ぎて結果的に広いマーケットを狙ってしまうところがあるんです。でもそれじゃダメなんだろうなって今の話を聞いて思いました。結局、他と比べられて価格競争になってしまうでしょうから。

そうそう。単なるハウツーならネットのまとめ情報で十分ですけど、「その人が作った本」となると古くなっても価値が色あせませんから。例えば1冊1冊職人が手作りしていたりとか。そういう感覚ってすごく大事だと思いますね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















