第142回 「儲かりそう」に手を出す経営者は、なぜ伸びないのか

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

「儲かりそう」に手を出す経営者は、なぜ伸びないのか

安田

倉橋さんはXで「経営というのは、やることよりもやらないことを決めることだ」と書いてらっしゃいましたよね。同時にセンターピンを絶対外しちゃいけないとも。この二つの話をもう少し詳しくお聞きしたいなと。


倉橋

センターピンの捉え方はいろいろあるんですが、例えば業態を決めたときに「これもくっつけた方がいい」「あれも付けた方がいい」といろんな提案が来るんですよね。それを全部取り入れると、結局よくわからない店になってしまう。それが嫌なんです。

安田

なるほど。でも私の中ではセンターピンって「やらなくちゃいけないこと」のイメージだったんですよ。この商品は絶対動かさなきゃとか、立地は絶対外しちゃいけないとか。「やらないことを決める」とは、ちょっと違う話のように感じたんですけど。


倉橋

そこがつながっているんです。自分たちはこの方向性でいくと決めたら、とにかくそこでトライを重ねていく。儲かりそうだからとか、こっちも良さそうだとかいう理由で別のビジネスに手を出さない。リソースを一つの事業に集中させるということを、自戒を込めて常に意識しています。

安田

ああ、なるほど。私もいろんな会社の顧問をやってきましたけど、この問題って本当によく見かけるんですよ。いくつか事業をやっていて全部が赤字ではないと。だから辞めないで、また新しいネタが見つかったらさらにやるという人がいまして。


倉橋

わかります。でもそういう人って、なかなか会社が大きくなっていかないですよね。本業が別にあるのに飲食店をやる人とか。バーを経営したり、ラーメン屋をやってみたり。美容室とか塾のFCに手を出す人も多い。

安田

多いですね。しかもだいたい儲かってない。うまくスケールしている会社に聞くと、やっぱり「選択と集中」だと仰るんですけど。正直、7つ事業をやっている人に「5つやめなさい」とまでは言い切れなくて。


倉橋

それってその人にとってのセンターピンじゃないんですよね。例えば飲食業って、参入はしやすいですけど、リピートしてもらうビジネスとしては最も難易度が高いと僕は思ってるんです。そんなレッドオーシャンの世界に、片手間で入って勝てるわけがない。

安田

確かにそうですよね。でも「この事業は絶対儲かるんだ」「やらない理由がないだろう」と言われると、もったいない気もしてきちゃう。出資するだけで儲かると説明されたら、つい心が揺れてしまう経営者も少なくないと思うんです。


倉橋

そこは経営者の価値観ですよね。僕は絶対にやりません。そこにエネルギーを投下する、時間もお金も人も、とにかくもったいないと思ってしまうので。自分の経営力では、本業以外のレッドオーシャンで勝つのは難しいと思っています。

安田

ふ〜む、ただ「多角経営の方が安定する」と言われると、それもそうだ思うわけです。事業には必ず寿命があるから、完全にゼロになる前に種を蒔いておかないといけない。


倉橋

そこは仰るとおりだと思いますよ。実際万代もスタートしたときの8つの商品カテゴリーのうち、4つはもう消滅しています。既存のビジネスは成長期から安定期、そして衰退期へと必ず移行しますから。安定期のうちに次の手を研究し続けることは欠かせません。

安田

ああ、ということは、新しいビジネスの種は常に準備しておくけれど、それは本業の延長線上で考えるというわけですね。新規事業を選ぶときの何かマイルールみたいなものがあれば教えてほしいです。

倉橋

やっぱり今のお客様に対して何ができるかという視点ですね。先ほど飲食業は難しいという話をしましたが、焼肉きんぐさんみたいな業態はうちの店舗とすごくシナジーがあるんです。今のところやるつもりはないですけど、可能性はゼロではないかなと。

安田

ははぁ、なるほど。あくまで今のお客さんとのシナジーが大前提だと。本業と全く関係ないけど今儲かっているビジネスがあるから出資して始めようとか、そういうことはやらないんですね。ちなみに、そういう誘惑に勝てない経営者については、正直どう思います?

倉橋

うーん、やっぱりビジネスを深めていくことは難しいでしょうね。うちはファミリーがターゲットなので、カップルがメインのビジネスはどんなにモデルが優れていても手を出しません。一つのターゲットにどれだけ深く向き合えるかが勝負ですから。

安田

言われてみると、サイドビジネスに手を出す人って、本業への興味や関心がちょっと薄くなっている場合が多い気がしますね。顧問をやっていても「もうちょっと本業を深掘りしたらいいのに」と感じることがよくあります。

倉橋

そうですね。本業が儲からなくなると隣の芝が青く見えて、全然違う分野に手を出してしまう。でも全く違う畑からやってきてその分野で利益を出す人も今時いっぱいいるわけですから、本業にはまだまだ可能性があるはずなんですよね。

安田

倉橋さんにそう言ってもらえると自信が持てます。とにかく飲食は「自分の店を持ちたい」という人が多いですよね。知り合いの美容師に「店を持ちたい」と言われてお金を出しちゃう人もいますし。

倉橋

自分がそこに入って有名人に来てもらうのが嬉しいんでしょうね。気持ちはわかりますけど、経営としてはセンターピンからどんどん離れている。そこに気づけるかどうかが、経営者として一番大事な判断なんだと思います。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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