ーこの対談についてー
私(安田佳生)が終わりを意識し始めたのは、まさに終わった時。すなわち会社が潰れた時です。終わると思っていなかったことが終わる。そのとき痛感したのは「終わりを想定していなかった愚かさ」です。会社にも、人生にも、あらゆるものに終わりはあります。終わることが問題なのではなく、自覚がないままに終わっていくことが問題なのです。この対談は、ご葬儀というまさに「人生の終わり」を仕事にしている鈴木社長(のうひ葬祭 代表取締役)に、私の率直な疑問をぶつけたものです。社長の終わり、社員の終わり、夫婦や友達の終わり、そして人生の終わりについて。終わりから考えた二人の対談をぜひご一読ください。
『社長は自ら終わりを決める』
鈴木さんは人生の終わりとか、会社の終わりとか、考えたことありますか。
ああ、自分の終わりっていうのは考えてます。すごく長生きしたいとも思ってないので。
母親は53で亡くなったんで、ちょっと早すぎですけど。父親が80手前だったんで、まあそれぐらいでいいかなあと。
下限は、まあ60は超えたい。じつは僕60で社長をやめようと思ってまして。
私は前の会社がつぶれてからなんですよ。終わりから考えようって思い始めたのが。
ちょうど10年前です。私の場合は終わらされた感じですけど。
ちょっとお聞きしたいんですけど。安田さんが考える社長の終わりって「会社を引退する」ってことですか。どういう「終わり」ですか?
別の会社の社長をやってもいいですけど。「ひとつの会社の社長を20年以上やらないほうがいい」って言われて。実感としては15年ぐらいが限界かなと思ってます。
なんか、ちょっと分かる気がします。僕も、いちばんウワーって仕事をやれたのは、たぶん10年目ぐらいでした。
私は「社長は自分で終わりを決めるべき」と思ってまして。理由は二つあるんですけど。まず「会社にとって自分がベストかどうか」ってこと。
高齢ドライバーさんで、免許返納しない人いるじゃないですか。
運動神経とか反射神経って人によると思うんですよ。で、「自分はまだまだ大丈夫」ってみんな思ってる。
政治家も「しがみつきだ」って言われますけど。本人はきっと「若いやつじゃ無理。俺がやるしかないだろ」って、たぶん思ってる。
じつは私もそう思いながら20年社長をやってたんです。でも今から振り返ってみると、すごく視野も狭くなってたし、自分の立場に慣れすぎちゃってました。
社長って、自分がやりたいようにできちゃうじゃないですか。
いま考えたら、もうちょっと適切に交代しておくべきだったと。
はい。あとから振り返ったらわかるんですけど、その時は分かりませんでした。たとえば会社がつぶれそうになってからは、誰も交代してくれないです。
うまくいってる時がいちばん交代しやすい。でも、うまくいってる時って、自分自身も絶好調なので、なかなか自分で交代しようとは思わない。
だから私の結論は、スタートするときに「何年の何月にやめる」って決めちゃうこと。
「あと2年で辞める」とか突然言いだしても、なかなかうまくいかない。完璧な引き継ぎなんてできない。結局のびのびになっていくんです。
だから「15年目で終わり」って最初に決めておく。うまく行こうが行くまいがそこで終わり。そしたら、そこから逆算して今年なにすべきかって考えると思う。
終わりがあるのは大事だなって仕事柄すごく思いますよ。
とくに社長業は終わりを決めておくことが大事。うまくいってるときは「つづけたい」って思うし、大変になってくると一人で背負っちゃうので。その時の判断で辞めるのは難しい。
だって社員にはやめる自由があるでしょ。社長はやめられないじゃないですか。
やめても借金ついてくるので。自分や家族を守るには売却しかない。うまくいってるときに売却して、自分よりも適してる社長さんに任せる。それがベスト。
まだ経営に興味があるのなら、また別のビジネスをやってもいいし。
いま54になりましたけど、10年ぐらい前にそういう話がありました。
「一緒にやりましょう」っていうM&Aの話がありました。けど、そこの選択はちょっとできなかったですね。
鈴木さんの場合は先祖代々の仕事でもありますし。そう簡単に自分の意思だけで売るわけにはいかないですよね。
自分としてはちょっと落ち込んでた時期があって。真剣に考えましたよ。
だけどやっぱり、ちょっと体裁を気にしちゃいました。「あいつ売りやがったぞ」みたいな(笑)
やっぱり会社を売るって、昔だったら「逃げた」とか「だめだった」とか、倒産や廃業に近いイメージですもんね。
いまは時代も変わりましたから。終わりから考える若い経営者も増えてますよ。
アメリカのシリコンバレーなんかそれが普通ですもんね。
そうなんですよ。ゼロからイチをつくりだすのが得意な人と、それを大きくしていくのが得意な人と。やっぱりステージによって違うので。
僕は圧倒的に「ゼロイチ」ではないですね。「イチを大きくする」ってことしかできない。
イチを10にするか、10を100にするか、100を1,000にするか。これもまたちがう能力ですよね。
最近の若者で多いのは「10年」とか決めて起業する人。売却した資金でまた事業をやるか、投資家になるか。最初から割り切ってやってます。
ぜんぜんないですね。私は会社がつぶれるまでやっちゃいましたけど。いま振り返って思うのは、「社長は会社を売るときに罪悪感なんか抱いちゃいけない」ってこと。
社員には会社をやめる権利があります。どんなに手塩にかけて育てても「やめる」って言われたら無理やり引きとめられない。
恨み言も出ちゃうと思うんです。「こんなにお金かけて、こんなにかわいがってやったのに」って。でもそれはよくないと思ってまして。
そこはやっぱり快く送り出すべきかなと。だから社長が会社を売るときも、社員は快く社長を送り出すべきなんですよ。これはフィフティー・フィフティーなんです。
私は実体験からそう思います。「会社を売る」ってことは「社員を売る」ってことでもあるじゃないですか。
そうですね。僕も売却が頭をよぎった時は新卒採用したばかりの社員がいて。自分の思いで引っ張ってきてるじゃないですか。
「自分がいなくなったら、その人はどうすんの?」って。よぎりました。
ああ、それはすごく思います。舞台をつくるとすると、大道具さんがいたり、メインの主役がいり、助演がいりとか。そういうことですよね。
そうです。「会社」というドラマのなかの社長役をやってるだけ。べつに特別でもなんでもないんです。
対談相手:鈴木 哲馬
株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役
昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。
のうひ葬祭 HP ≫
4件のコメントがあります
哲馬さん。いつも直向きに走っている
お姿は、ステキです。
私も社長20年、これから後どのように
会社を後始末をするのかを考えておりました。とても参考になる対談でした。
有難う御座います。
福井君、コメントありがとうございます!私もこの対談を通じて改めて考え直すことが沢山ありました。
哲馬さんのお話しで、私の人生をどのように生きるかを考えるきっかけができました。
80歳で死ぬ。70歳までは車に乗る。
55歳で引退。という感じで逆算して考えると、いかにあと残りの人生が短いかわかりました。
ありがとうございます。
川野君、コメントありがとうございます。私も川野君の歳の時は前だけ向いて必死にやってました。でも、振り返ってみると誰も居ないみたいな状態で「何のためにやって来たのだろう?」と結構な期間悩みましたね。
でも今思えばその時はそういう時だったのでしょう。この対談を通して「今はどういう時なのか」を考えていこうと思います。
その時の自分にとって良いこと、悪いことと感じるがあると思いますが、それが起きた意味を自分なりの納得解を探していこうと思います。