【vol.369】Z世代ブランド・レーダー2026③

GlobalPicks 〜海外の情報を読み解いて、ビジネスに付加価値を投薬する方法〜 著者:小出 紘道

先週に引き続き、Basisが発表した「The Gen Z Brand Radar 2026」を取り上げます。このレポートでは、Z世代がブランドについて語る会話を6つのSignalに分類し、それぞれ異なる観点からブランドの「文化的な勢い」を捉えています。

今週の記事はこれ。

The Gen Z Brand Radar 2026
(Z世代ブランド・レーダー2026)
https://basisglobal.co/intelligence-hub/the-gen-z-brand-radar-2026/

改めて6つのSignalを並べると、次の通りです。Signalは「指標」とか「観点」というイメージです。

Signal.1 The Verdict(評決/そのブランドは信頼できるか)
Signal.2 The Drop(新作投下/今すぐ注目したいか)
Signal.3 The Edit(選別・編集/長く残す価値があるか)
Signal.4 The Remix(再解釈/自分らしく使いたくなるか)
Signal.5 The Crowd(仲間・コミュニティ/人にも薦めたいか)
Signal.6 The Moment(文化的な瞬間/その場に参加したいか)

 

前回はSignal.2の「The Drop」を見ました。限定商品やコラボレーションなどを通じて、「今、この瞬間にどれだけ熱量を生み出せるか」という指標でした。今回は「Signal.3 The Edit」を見ていきます。

 

Signal.3 The Edit(選別・編集/長く残す価値があるか)

Is this brand worth keeping?
The long-term filter. Capsule wardrobe staples. Repurchase essentials. “The only one I use.” Durability and repeat behavior live here, not hype.

このブランドは、残しておく価値があるのか?
長期的なフィルターです。カプセルワードローブの定番。繰り返し購入する必需品。「これしか使わない」と言われるもの。ここで重要なのは話題性ではなく、耐久性と繰り返し選ばれる行動です。

「Edit」は直訳すると「編集」ですが、ここでは「たくさんある選択肢の中から、本当に必要なものだけを選び残す」というニュアンスだと思います。「Capsule wardrobe」をググってみると、少数の定番アイテムを組み合わせて着回すワードローブのことみたいです。「Repurchase essentials」は、なくなったらまた同じものを買うような必需品。つまりThe Editは、「一度買って終わり」ではなく、長く使われる、あるいは何度も買い直されるブランドかどうかを見る指標ということですね。

前回のThe Dropとは、かなり対照的です。The Dropは「今すぐ欲しい」「乗り遅れたくない」という瞬間的な熱狂でした。一方、The Editは「結局これを使い続けている」「次もまたこれを買う」という継続的な選択です。レポートの「Durability and repeat behavior live here, not hype.」という一文が象徴的です。話題になっているかどうかではなく、「残るか」「繰り返し選ばれるか」が重要ということでしょう。

マーケティングの言葉に置き換えると、新規顧客を一気に獲得できるかではなく、使った人が離れずに、そのブランドを選択肢の中に残し続けることができるか、という話にも見えます。新商品を発売するたびに大きな話題をつくらなくても、「他の商品に替える理由がない」という状態をつくれれば強いわけで、派手さはありませんが、ブランドにとってかなり強固なポジションだと思います。

米国のThe Edit指標で1位となっているのはPatagoniaです。Patagoniaは米国の総合ランキングでは5位ですが、The Editでは1位です。レポートでは、Z世代が「残しておく価値のあるブランド」について話すとき、Patagoniaがトップになるとしています。そこには、価値観、長く使えること、品質といった要素があります。

前回も少し触れましたが、PatagoniaはThe Dropではトップからほど遠いです。NikeやOff-Whiteのように、「今買わないと逃す」というFOMOを生み出すタイプのブランドではないからですね。レポートでは、Patagoniaの勢いは「short-term heat(短期的な熱狂)」ではなく、「long-term trust(長期的な信頼)」から生まれていると説明しています。

この対比はわかりやすいですね。Patagoniaは、毎回新作が発売されるたびに行列ができるようなブランドではありませんが、「一度買ったものを長く使う」「次も同じブランドを選ぶ」という意味では非常に強い。前回のThe Dropでも書きましたが、「今すぐ欲しいブランド」と「長く使いたいブランド」は必ずしも同じではないということです。そしてブランド経営という視点では、The Dropでつくった一時的な熱狂を、The Editのような継続的な選択に変換できればかなり強いのではないでしょうか。

ちなみに、英国のThe Editで1位となっているのはDr. Martens(ブーツのドクターマーチン)です。Dr. Martensは英国の総合ランキングそのものでも1位で、6つすべてのSignalに登場しています。さらにThe EditとThe Momentでは1位、The Remixでも上位に入っています。

レポートでは、「Docs are worn, customized, recommended, and shown up for.」とあります。履かれ、カスタマイズされ、薦められ、ブランドが生み出す場にも参加される。単に「長持ちする靴」というだけではなく、長く使われながら、その人なりのスタイルやアイデンティティにも組み込まれているということですね。

PatagoniaとDr. Martensには、かなり共通点があるように思います。どちらも、「次々と買い替えること」を前提にしたブランドではありません。むしろ長く使うこと自体がブランドの価値になっています。これはZ世代というと、「トレンドに敏感」「次々と新しいものに移る」というイメージとは少し違って興味深いですね。

もちろんThe Dropのような瞬間的な熱狂もZ世代のブランド行動の一面ですが、一方では、長く使えるもの、何度も買いたくなるもの、自分の定番として残るものもきちんと評価されている。この両方が同時に存在しているということなのでしょうか。

企業側から見ると、「買ってもらう」ことをゴールにするのではなく、「次の選択のときにも候補から外されない」ことが重要になります。The Editは、ブランドの強さを「どれだけ一瞬で売れるか」ではなく、「どれだけ長く生活者の選択肢に残り続けられるか」で見る指標と理解しました。

強いブランドになるためには、新しい顧客を増やすことだけではなく、「選ばれ続ける理由」をつくることも重要だ、ということでしょう。

今週は以上です。

 

 

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「本コラムと、本業ビジネスとの関係」(著者・小出紘道より)

本業ビジネスでは「マーケティング&戦略コンサル」の仕事と、「高付加価値情報提供サービス」の仕事をしています。本コラムは後者の「高付加価値情報提供サービス」の初級編としての入り口となればいいな、と思ってます。世界の誰かが”既にかなり研究したり、結論を出している”にも関わらず”日本では流通していない数値情報や文字情報”がたくさんあります。それらの情報を、日本のマーケットにフィットするように編集・分析すれば「競合他社」や「競合他者」を出し抜ける可能性が高まります。法人向けのサービスとなっていますので、詳細はFace to Faceでお伝えしますね。

著者情報


小出紘道 (HIROMICHI KOIDE)
◆株式会社シタシオン ストラテジックパートナーズ 代表取締役社長 http://citation-sp.co.jp
◆株式会社シタシオンジャパン 取締役会長 http://www.citation.co.jp
◆株式会社 イー・ファルコン 取締役 http://www.e-falcon.co.jp
<いわゆる経歴>
・2000年 株式会社東京個別指導学院に新卒で入社して、11ヶ月だけ働いてみた(→早めに飽きた) ・2001年 イギリスに行って、University of Londonで経済と国際関係を学んだり、Heriot-Watt Universityで経営学(MBA)をやってみた(→めちゃくちゃ勉強した)。この間に、イギリス人の友人とロンドンで会社を作ってみた(→イマイチだった) ・2003年 シタシオンジャパン社でマーケティングをやり始めてみた(→ろくにエクセルも使えなかった) ・2007年 シタシオンジャパン社の代表取締役社長になって経営をやってみた(→やってみてよかった) ・2018年 シタシオンジャパン社の社長を仲間に託し、引き続き会長としてコミットしつつも、シタシオンストラテジックパートナーズ社を設立してみた(→今ここ)
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1件のコメントがあります

  1. とてもハードな仕事生活のように見えますが、結婚はされているのですか?私は、現在71歳で、安西さんの以下の記事を見て、ここに入りました。
    『【Z世代ブランド・レーダー2026③】
    ずっと使い続けたいこと。時間ではなく期間に馴染むブランド。これが本物。』

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