日曜日には、ネーミングを掘る #066 上級国民

今週は!

世の中、いろんな言葉が現われては消えていきますが、最近、気になっている言葉のひとつに「上級国民」があります。

この言葉を初めて目にしたのは、今年の4月、池袋で発生した元高級官僚ドライバーによる痛ましい事故の折ですが、その後、あっという間に広がり、いまはネット上の書き込みや日常の会話の中で頻繁に耳にするようになっています。

職業柄、こうした言葉を巡る出来事が起きると、始まりはどこかが気になってしまうわけですが。調べてみると、ルーツは2チャンネルで、しかも当初は意味が現在とはまったく違っていたことがわかりました。

上級国民はいわゆる特権階級や上流階級を指し、一般国民と対をなすものとされていますが、当初は「デザインがわかる専門家」のことを指していました。

背景には、2020年東京オリンピックエンブレム騒動があります。著名なデザイナー佐野研二郎氏による採用案が、パクリかつ出来レースではないかとネットで指摘され、日本中を巻き込んで大騒ぎになったあの事件です。

釈明を求められた審査委員長の永井一正氏は、「デザイン界としては、佐野さんの作品はオリジナルであると認めたい。しかし、それは(デザイナーではない)一般の人たちにはわからないでしょう」といった旨の発言をします。

それに対して、2チャンネルのニューススレッドでは「なんちゅう上から目線だ」と批判の声が上がり、このやりとりのなかで「デザインがわかる専門家=上級国民」という言葉が登場し、池袋の事件以後は現在の解釈へと変わったプロセスがあったようです。

「上級国民」という言葉を見たとき、心根が少しざわざわとしました。この言葉には日本の社会に良い意味で揺さぶりをかけられるポテンシャルがあり、それが一人の元高級官僚が引き起こした事件を通して目覚めたのかもしれない。そんな気がしています。

参院選挙に向けていまひとつ結束し切れない野党などは、自由民主党≒上級国民が支持する政党に見立てて、解党後一致団結し「一般国民党」と名乗ればそこそこ戦えるのではないかしらなどと思い立ったところで、今週のブログを終わります。

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