第370回 新卒採用の大きなハードル

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第370回「新卒採用の大きなハードル」


安田

ノジマさんがなんと新卒初任給を40万円出すそうです。

久野

すごいですよね。アルバイトの中から厳選された新卒が対象みたいですけど。

安田

はい。通常の新卒は初任給34万4000円だそうです。ここに6万円近く上乗せして採用するそうです。

久野

「出る杭入社」っていう採用枠みたいですね。

安田

アルバイト経歴が1年以上の人限定なので戦力が見込める人材なんでしょうね。

久野

1年働けばどの程度戦力になるか分かりますから。

安田

初任給40万円でも元は取れますか?

久野

優秀だったら取り返せるんじゃないですかね。今まで新卒はみんな一律でしたけど、中途と同じように「稼げる人にはお金払う」という良い傾向だと思います。

安田

でもさすがに40万となると、2〜3年目で合格ラインを下回る人も出てきませんか?

久野

出てくるでしょうね。おそらく次のステップで調整するつもりなんでしょう。優秀な人材はさらに上のステップに行く。行けなかったら通常の新卒とどこかで並ぶ。

安田

なるほど。つまり40万円以上のスキルを付けないと昇給しないってことですね。

久野

そういうことだと思います。入った後の人事制度もしっかり整えているはず。

安田

でも40万円から下げるわけにはいかないですよね。

久野

すぐには下げられない。ただある程度のスキルはコミットされてると思います。現場仕事ができる人は2年目から5万6000円昇給するみたいなので、そのスキルはあるという判断でしょう。

安田

なるほど。優秀な2年目の人に合わせているわけですね。

久野

要は1年間もう現場経験があるわけなので、そこが省かれてるんだと思います。

安田

つまり通常の新卒からも2年目で40万になる人が出てくるってことですか?

久野

そうですね。最後は同じ評価テーブルに載せていくと思います。

安田

でも40万円はインパクトありますよ。

久野

他社もガンガン上げてきているので。ファーストリテイリング37万円、サイバーエージェント42万円とか。25〜26万円だと最低ラインに近くなる。

安田

優秀な新卒を採用するなら40万ぐらいは出さなきゃダメってことですか?

久野

そうでしょうね。さすがに40万は中小企業には厳しいですけど。

安田

ついこの間まで20万ちょいだったのに。

久野

あっという間に2倍近くになりましたね。新卒もエージェント経由が増えてきてますし。中途採用と同様に能力に応じた給与体系になってきてますよ。

安田

とはいえ新卒ですから即戦力とはいかないですよ。

久野

いや、教育費も兼ねてその金額だと思います。だから学生も即戦力じゃないと採用されなくなってくる。

安田

もう横一線ではなくなると。

久野

なくなるでしょうね。「自分たちで投資してスキルをつけて企業に売り込む」というフェーズになっていくと思います。

安田

昔の大学生とは全然違いますね。

久野

学生も大変になると思います。働く方がスキルをアピールして給与評価してもらう流れになるので。

安田

この40万円の採用はうまくいくと思いますか?このレベルの人材なら有名大企業に内定が取れるんじゃないかと思うんですけど。

久野

そういうことだと思います。だから、それを囲っていきたいってことじゃないですかね。

安田

業種的には家電量販店ですからね。勝てるのかな。

久野

そんなに簡単ではないと思います。だからこうやってプレスリリースを打っているわけで。

安田

逆に37万じゃ採れないってことですもんね、通常の初任給では。

久野

僕らでもそうですけどインターンやバイトって結構優秀な子が来るんですよ。

安田

バイトなら来ますよね。

久野

来る。で、「うち来ない?」って口説いてもなかなか厳しいですから。

安田

この40万採用の対象者もかなり優秀なんでしょうね。売り場ではすでに実績を上げていて、将来的に組織の核になるぐらいの見込みがある人材。

久野

あまりオフィシャルにはなってないんですけど、例えば大手製薬会社とか製造業の研究開発部門って内定者にお小遣いを渡してますから。

安田

お小遣い?

久野

要は奨学金みたいな名目で1年間サポートしますよっていう。それくらいやって囲い込んでるわけですよ。

安田

水面下ではもうやってるわけですね。

久野

今まで水面下でやってきた制度をオープンにしていかないと人も集まらない。ノジマの人事も必死だと思いますよ。

安田

中小企業はどんどん厳しくなって行きますね。初任給も30万円くらいが限界でしょうし。

久野

そうですね。内定辞退者アンケートによると内定を受ける初任給は「最低でも25〜26万円」と言われてますから。

安田

初任給30万円払って育成しても3年くらいで辞めていくし。

久野

はい。5年ぐらいのスパンで見ると、2〜3年前とは比べ物にならないぐらい離職率上がってます。「仕事を覚えたので辞めます」みたいな。

安田

もはや中小企業が新卒採用するのは自殺行為かもしれませんね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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