原因はいつも後付け 第37回 「今こそ『値下げしない』という決断を」

// 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第37回》今こそ「値下げしない」という決断を

先週、1ヶ月半に及んだ緊急事態宣言がようやく解除となりました。
依然として制限付きではありますが、商売をしている方からしてみれば「これでようやく今まで通りの営業ができる」という安堵の方が大きいのかも知れません。

ただ、今後お客さん達の消費意欲がコロナ以前のように戻ってくる保証はない、と言うのもまた事実。その不安もあるからでしょうか、実は最近ちょっと気になっていることがあるのです。それが、

「値下げ販売をしているお店が増えている」ということ。


「こんな状況だから仕方ないよね。」

値下げ販売をしているお店が増えている理由。
それは、こんなオーナーの気持ちの表れなのかも知れません。

お店の経営も厳しいけど、街ゆくお客さんの状況も厳しいだろう。
お互い大変な状況だから、一時的に値下げ販売することも今は仕方ない。

何だかこんな雰囲気が街中に溢れている気がするのは私だけでしょうか?

オーナーが考えている、この「一時的な値下げ」。
なぜ私は、この値下げが気になっているのか?

それは、お店側からしてみれば「一時的」であっても、お客さん側からしてみれば「一時的」とは認識されない可能性があるから。

皆さんも経験があるのではないでしょうか?
ある商品をセール価格で買い続けた後、通常の価格に戻った時どんな印象を持つのか?
それはもはや、通常の価格に戻ったという認識ではなく、単なる値上げに見えてしまうのです。

これはつまり、お客さんの記憶の中では「一時的な値下げ価格」が「定価」として上書きされてしまったという事。

お客さんの為に良かれと思ってやった一時的な値下げ販売。
これが必ずしも、お店とお客さん双方にとって良い結果を招くとは限らない訳です。

今後も当面は厳しい環境が続くであろうことは私も分かります。
でも、だからこそ思うのです。
「値下げ以外でお客さんが買いたくなる方法を考えた方が良いんじゃないか」と。

値下げ以外で買いたくなる方法。
ここから何を生み出すかはオーナーのアイデア次第でしょう。

私は今回の件でお客さんの需要が変化することを想定して、新しい商品を作りました。

需要が変化するかもしれないのであれば、私たちがやるべきなのは、既存の商品を値下げして買ってもらおうとすることではなく、新たな需要を想定した商品を考え、その商品を適正な価格で販売することに力を注ぐことだと思います。

値下げは決めるのが簡単な一方、元の価格に戻すのはとても難しいというのが、これまで商売をやってきて私が感じていること。
いま、この状況において私たちがやるべき最善の策は、本当に一時的な値下げなのか。

私には値下げをしないで売る方法を考えることこそが、お店とお客さん双方にとっての最善であり、安易な「一時的な値下げ」はお客さんの記憶を上書きし、自らの経営環境を厳しくしてしまうだけの選択に思えて仕方がないのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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