第128回 否定も肯定もされないお店

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

初めてのお店に行こうと考えた時、ネットの口コミを参考にする人は多いと思います。
そのため、お店側の立場で集客を考えるのであれば、できるだけ良い口コミを増やしたいと考えるのは当然のことと言えます。

私のお店にも様々な口コミが書き込まれていますが、当然その全てが肯定的なコメントばかりではなく、中には否定的なコメントが書かれているのも目にします。じゃあ、私がこうした否定的なコメントをなくしたいかと言うと、そうは思いません。

なぜなら否定的なコメントがあるということは、商売において大切な「ある事実」を証明している場合もあると感じるからです。


私のお店に対する否定的なコメント。
その中でも比較的よく目にするのが「食事の量が少ない」という内容のコメント。

確かにこうした内容だけを見れば、お店の集客にとってはマイナスの印象になるかも知れません。ただ一方では、お店に対する評価として「少量ずつ色々食べられるから嬉しい」といったプラスの評価もあるのです。

つまり、同じ商品にも関わらず、その量に対してプラスの印象を持つ人もいれば、マイナスの印象を持つ人もいるということ。

もちろん、どちらの評価が正しいという正解はありません。
ただ、ここで私が「プラス評価かマイナス評価か」という結果よりも重要だと思うのは、お店が「どんな顧客に向けて商品を考えたのか」という軸を持っているかどうかだと思うのです。

私のお店は数年前に大幅な商品の見直しをしました。
その時の狙いこそ「色々な商品を楽しんでほしい」というものであり、その狙いから考えるのであれば、量が少ないという否定的なコメントはむしろ、お店の主張が伝わっている証明といえる訳であり、お店の主張が伝わっているからこそ「色々食べられて嬉しい」という肯定的なコメントもあるのだと思うのです。

「どんな顧客に向けて商品を考えたのか」

お店の主張があるから賛否が分かれるのであり、お客さんがお店に求める価値は個々によって異なる以上、私たち店舗オーナーが意識すべきなのは、全員から良い評価をもらおうとすることではなく、自分の想定した顧客にしっかりとお店の主張が伝わっているかどうかではないでしょうか。

良い口コミを書いてもらえると嬉しいのは事実ですが、良い口コミばかりを集めようとするあまり、全員の期待に応えようとするほどお店の主張はなくなり、主張をなくしたお店は結果的に否定も肯定もされない、魅力を失ったお店になってしまうような気がしてならないのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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