第140回 見栄えの良さよりも大事にしたいこと

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

先日、あるオーナーさんと店内に掲示するポスターについて話をしていた時に、ふと思い出したことがあります。

それが何かというと、自分の開業時にはポスターを制作するソフトを扱うスキルもなければ、大型のポスターを印刷できる環境もなかったということ。

そのため自分のお店が7〜8店舗くらいになるまで、私は前職で使用していたパワーポイントというソフトと家庭用の小さなプリンターでメニューや販促物を作っていた訳ですが、今から当時のメニューや販促物を見返すと、決して見栄えが良いとは言えません。

そして、こうした事実を思い出して、改めて感じたのです。
「やはり販促には見栄えの良さよりも大事なことがある」と。


私がいま、このコラムを書いている事務所には大型のプリンターがあります。そのプリンターにフォトショップを使って制作したデータを送ることで、キレイにデザインされた大きなポスターもすぐに印刷できるようになりました。

この環境があるからこそ、私が店舗オーナーさん達の集客に役立つツールを作ることができているのは事実。ただ一方では、例えキレイな販促物を作ることができる環境があったとしても、それで集客が増やせるかというと、それはまた別問題だと感じるのです。

恥ずかしながら当時の私は、フォトショップというデザインソフトを習得し、大型プリンターでキレイなポスターが印刷できる環境さえ用意できれば、自分のお店はもっと売上が伸ばせると考えていました。

でも結果は私の期待とは異なるものでした。
メニューや販促物の見栄えは格段に良くなったものの、お店の売上はほとんど変わらなかったのです。

これはつまり「見栄えの良さは売上に直結する要素ではない」ということであると同時に、「見栄えの良さよりも売上に繋がる重要な要素が他にある」ということです。

そして、その重要な要素こそが「お客さんに何を伝えたいのか」という言語化された内容そのものであり、仮にどれだけ見栄えの良いツールを作成したとしても、伝えたい内容が明確でないツールはお店にとっての自己満足でしかないのでしょう。

冒頭のオーナーさんのお店は、手書きでお店のこだわりを言語化した素朴なメニューを使っています。それでも繁盛している事実から分かるのは、やはり「伝えたいことを丁寧に言語化したツールこそがお客さんの心に届くのであり、明確なメッセージには見栄えの良さを超える力がある」ということ。

デザインソフトや大判印刷の価値を否定するつもりはありませんが、見栄えの良さばかりに労力を注ぐあまり、伝えたい内容の言語化が疎かになってしまうようであれば、それこそ本末転倒なのではないか、と当時の自分を振り返ってみて思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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