第156回 短期の得と長期の得

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

先日、聞いたことのないグルメサイトから一通のメールが届きました。
内容を見てみると、少し雑な文章で「宣伝を無料でするから新規オープンしたお店の席数と営業時間を返信しろ」と言った事が書いてありました。

もしかしたら、このメールの送信元である会社は「無料で宣伝してあげるのだから喜んで返信して来るだろう」と考えていたのかも知れません。確かに無料でお店を宣伝してくれるという提案は、一見お店にとってお得な内容にも思えます。

でも、私はこのメールに返信することはしませんでした。
なぜなら、こうした姿勢で仕事をする会社とは、長期で付き合える関係が作れるとは思えなかったからです。


できるだけコストを抑えて売上を立てる。
これは自分で商売をやっている人であれば、誰もが共通して持っている認識ではないでしょうか。そう考えるのであれば、冒頭に挙げたメールに返信をした方が短期で見れば正解だったのかも知れません。

ただ、これまで商売をしてきて私が感じているのは「短期の得の積み重ねが長期の得になるとは限らない」ということであり、本当の得とは「価格表」といった分かりやすいものには表れないということ。

例えば、私が出店をする際、工事を依頼している業者さん。
もう15年ほどの取引になりますが、恐らく1店舗単体で見積もりを取れば、もっと安く工事を請け負ってくれる会社もあるとは思います。

じゃあ、出店する度に多くの業者さんに見積もりを依頼して、その都度安い業者さんに発注をすれば商売が上手くいくのかと考えると、私にはそうは思えないのです。

と言うのも、長期で取引をしているからこそ取引先のニーズやお店が大切にしている価値観の共有ができるのであり、こうした長期の関係から生まれる情報の共有が「時間の短縮」という「見積もりには表れない双方にとっての得」を生み出していると感じるからです。

つまり、目先の損得ばかりに囚われて取引を決めている限り、長期の関係から生まれる本当の得をすることはなく、どんなにお得に思える提案であっても、長期で関係を作ることができないと感じる取引に時間を使ってしまうことこそが本当の損を生み出すのではないか、と私には思えるのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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