第186回 別々に見える課題

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

「お客さんの単価をもっと上げたい」
「早い時間の来店数を増やしたい」
「紹介による集客を増やしたい」

これらは、過去に私が頭を悩ませてきた課題です。
このコラムを読んでくれている方の中には、当時の私と同じような悩みを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

でも残念ながら、私の場合はこうしたそれぞれの課題に対する答えを見つけることはできませんでした。いや、これらの課題を別個にして考えていたからこそ、答えを見つけることができなかったような気がするのです。


お客さんの単価を上げるために、特別なイベントを用意する。
早い時間の来店を増やすために、ハッピーアワーという安売りをする。
紹介による集客を増やすために、紹介キャンペーンをやる。

私たちは自分の商売がもっと儲かるようにするために、こうした取り組みを考えます。
実際、店舗の開業や集客の支援をしていると、こうした取り組みについての相談を受けることは今でもありますし、やってみたら上手くいくお店もあるのかも知れません。

ただ、私の経験で言うならば、こうしたそれぞれの課題に対して様々な取り組みをしてきたものの、どれも上手くいったという記憶がなく、そんな経験を重ねてきて辿り着いた私なりの答えというのが、こうした課題を「個別に解決しようとしない」ということなのです。

この「個別に解決しようとしない」という考えをもう少し詳しく書かせてもらうならば、商売で直面する単価や来店時間、紹介集客といった課題というのは、実は別々の問題ではなく同じ課題の枝葉であり、その大元の課題というのが「お客さんが楽しめるお店かどうか」だと今は思うのです。

お客さんはお店で過ごす時間が楽しければ注文も増えて単価も上がるし、お店で過ごす時間が楽しければ早く来てくれるようになる。その結果として、自然と紹介による集客も増えていくということ。

そう考えるのであれば、私たちがやるべきなのは、何か新しい取り組みを無理やりひねり出して強引にお客さんを集めようとすることではなく、本来自分のお店がお客さんに提供したかった価値を見直し、その価値を今まで以上に掘り下げることによって、よりお客さんが楽しさを感じられるお店になることではないでしょうか。

商売に関する様々な情報が簡単に手に入れられる現在は、つい小手先ともいえる情報に振り回されてしまいがちですが、そのような情報から離れ、本来自分が商売をやることで伝えたかった価値に立ち戻ることこそが、様々な課題を解決するヒントに辿り着く方法なのではないかと私は思います。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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