第9回「社員は、もはや嗜好品?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第9回「社員は、もはや嗜好品?」

安田

もう会社なんか辞めて「自分で好きなことをやったほうがいい」っていうのが、私の意見なんですけど。

久野

そういう時代になりつつありますよね。

安田

でも、そういうことを書くとネットでは叩かれるんですよ。

久野

どんな人が叩くんですか?

安田

自信がない人じゃないですかね。「会社辞めて生きていけるのは、一部の人間だけだ!」みたいな感じで。

久野

会社員でいることが、好きなんじゃないですか?

安田

いやいや。そういう人に限って、会社の悪口を言うんですよ。

久野

ブラックだとか?

安田

彼らの中では、経営者って腹黒い人たちばっかりで「俺たちは踏み台にされて、使い倒されて、社長に搾取されてる」みたいな。

久野

今どき、そんな経営者の方が少ないですけどね。

安田

ですよね。社員の給料払うために借金して、ギリギリのところで頑張ってますよね。

久野

そういう方が多いです。

安田

社労士さんの立場から見ると、どうなんですか。正直言ってもう「社員を雇う旨味」って、あんまりないんじゃないですか?

久野

あんまりなくなってきては、いますよね。

安田

ですよね。雇うメリットより、雇われるメリットのほうが「大きくなってきてる」って気がします。

久野

ちょうど今、転換期でして。

安田

転換期ですか?

久野

今までは、雇って、搾取する社長の側がよかったんですけど。

安田

それが変わってきたと?

久野

実感しますね。情報がこれだけ溢れてきて、みんな「経営者から搾取されてる」って言い始めてるわけですよ。

安田

昔はそれが当たり前でしたからね。

久野

社長が稼いでいるのは当然、という感じでした。

安田

社長だけがベンツに乗ってても、できの悪い息子が社長になっても「まあ、そういうもんだ」で済んだじゃないですか。

久野

はい。

安田

それが今は「なんで、そんなボンクラが社長になるんだ」とか「なんで社長だけベンツに乗ってんだ」みたいなことを言われちゃう。

久野

今は、ネットに書くこともできるし、Facebookに上げることもできる。要は意見を言う力は、従業員のほうが持ってるんですよ。

安田

逆に、経営者が書き込んだら、えらいことになりますもんね。「クソ社員が」とか書いたら、叩かれて大炎上ですよ。

久野

雇うリスクも大きいですけど、辞められるリスクも大きいです。だから会社に入ると「自信をなくす教育」みたいのをやる。

安田

自信をなくす教育?

久野

だって本当の意味で「社員にめちゃくちゃ活躍してほしい」と思ってる経営者は、少ないと思うんですよ。

安田

どうしてですか?

久野

だって、自信がついたら独立しちゃうじゃないですか。

安田

なるほど。独立するほどの活躍は望んでいないと。

久野

それが本音ですよ。

安田

そうかもしれませんね。

久野

だって従業員に「どこにでも行けるスキル」とか「会社に文句を言える力」があれば、社内の均衡は必ず壊れますから。

安田

それほどまでの「スキルや力」はつけて欲しくない?

久野

ようやく育てた人材に辞めていかれたら、経営者は「やってられない」って話ですよ。

安田

辞めるのは社員の自由ですからね。

久野

だから困るんですよ。

安田

ところで人を雇うリスクについては、中小企業の経営者って本当に分かっているんでしょうか?

久野

今は人がいないので、雇うリスクまで考える余裕はないでしょうね。

安田

でも大企業は、もうとっくにそれに気付いて、動き始めてるじゃないですか。

久野

はい。どんどんリストラ資金を溜め込んで、準備してますね。

安田

中小企業は「人が足りない」とか言って、どんどん正社員を採ってますけど。

久野

「採れるものなら、どんどん採りたい」って感じですね。

安田

大丈夫なのかな?と思っちゃうんですけど。

久野

とりあえず人数確保だけしているケースはありますよね。

安田

今のままだったら、労働法に縛られてすごいリスクを背負い込みますよね?

久野

間違いないですね。

安田

中小企業って、人がいないと経営が成り立たない状態じゃないですか。

久野

基本、中小企業って労働集約型ですから。

安田

大企業は無人化とか真剣に考えてますよ。中小企業も、もっと真剣に考えないといけないんじゃないですか?

久野

本当そうだと思いますね。そもそも若い世代が減ってますし。

安田

だいたい新卒みたいな「若くて安くて有能な人材」なんて、大手がごっそり採ってしまうじゃないですか。

久野

そうなんですよ。大手が採って、中堅が採って、採用力のある中小が採って、採用力のない中小は転職を繰り返す人材を取り合ってる感じですね。

安田

それなのに、雇用するリスクは同じなわけですよ。

久野

そうなんです。「悪い人材を掴んだら、もうリリースできない」って話になってますから。

安田

でも大多数の中小企業って、ハズレばかり掴むじゃないですか。

久野

「売り上げの拡大」と「従業員の数」が連動してる仕事は、現代社会に合ってないんですよ。

安田

そうですよね。だから「社員数に比例しない売り上げアップ」というのを、中小企業もまじめに考えないといけないですよ。

久野

気が付いたら質より量を優先しちゃってます。それが社労士事務所の売り上げになってるのも事実なんですけど。

安田

私、採用やってたから分かるんですけど。

久野

はい。

安田

社員って「採用する気持ち良さ」みたいなのあるんですよ。とくに新卒が入ってくるのって、本当に嬉しいし気持ちいい。

久野

分かります。私も、新卒採用してますから。

安田

新入社員を連れて、ちょっと食事行ったり、ちょっといい話をしたり。あれは本当に気持ちがいい。

久野

安田さんもそうだったんですか?

安田

まさに、そうでしたね。自分に酔ってました。社長の挨拶だって、新卒は目を輝かせて聞いてくれます。

久野

給料払ってなかったら、社長の挨拶なんて誰も聞いてくれないですよね。

安田

ほんと、その通りです。

久野

社員数が多いと格好いい、みたいなのもありますよね。

安田

ありますね。僕らの世代は「従業員100人」こだわってる人が、いっぱいいました。「君んとこは何人なの?」みたいな。

久野

「社員がたくさんいる」イコール「すごい社長」みたいな。

安田

「気持ちいいから社員を雇う」って割り切るんだったら、それはそれでいいのかなと思うんですけど。

久野

どうやって割り切るんですか?

安田

社員というのは、今までは「売り上げ上げるための必需品」だった。でも「これからは嗜好品になる」という割り切り。

久野

嗜好品ですか?

安田

はい。ヴィトンのバッグを買うみたいに「ちょっと利益出たから社員雇っとこうか」みたいな。

久野

さすがにそこまで割り切れないでしょ(笑)

安田

毎年Facebook見てると思うんですよ。

久野

Facebookですか?

安田

はい。新卒採用した社長さんって、必ず内定式とか入社式の写真をFacebookにアップするんですよ。

久野

確かに。みなさん、かなり嬉しそうですよね。

安田

でしょ?お気に入りのドライバーやパターを手に入れた時と、同じ反応ですよ。

久野

すごい視点ですね。

安田

でも、新入社員ってずっと可愛いわけじゃないんですよ。年も取るし、30になれば40にもなるんです。

久野

ずっと、社長のビジョンに目を輝かせてくれるわけじゃない?

安田

入社時がピークですよ。婚約や結婚と同じ。

久野

確かに。本当そうかもしれません。

安田

でも銀座に行って「社長すごい!」って言われるより、新入社員に「社長尊敬してます!」って言われるほうが嬉しいんですよ。

久野

いやー、それ分かります。

安田

だから「人を雇わずに利益を上げる仕組み」を考えるか、あるいは「これは自己満足を買ったんだ」と割り切って採用するか。

久野

でも、たまに、いい社員が採れるんですよ。だから「また、来てくれないかな」と思って期待しちゃう。

安田

確かに、たまにありますね。おみくじの大吉みたいに。確率は100分の1くらいですか。

久野

いや30人に1人ぐらい、いますよ。

安田

じゃあ、30人の会社だったらほとんどハズレですね。29人のハズレを抱えてふたりで頑張ると。

久野

社長ってMの人が多いですからね。頑張っちゃうんですよ。

安田

そこまで行ったら、もはや麻薬みたいなもんですね。

久野

確かに。社員と一緒にしんどさを乗り越えるのが、快感みたいになってます。

安田

白状しましたね?

久野

白状しちゃった(笑)


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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