第147回 ワークライフバランス

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第147回「ワークライフバランス」


安田

NTTが転勤・単身赴任の廃止を検討してるそうです。

久野

私もニュースで見ました。

安田

大企業って転勤や単身赴任が当たり前で、それと引き換えに高給や終身雇用が約束されてるイメージなんですけど。

久野

それが常識でしたね。

安田

ここを撤廃してしまうと、雇い続けるのが難しくなりませんか。

久野

普通にやってれば転勤なんて必要ないですからね。日本の大企業はポストをつくるために全国に支店をつくり、役職をつくってきたので。

安田

もう支店はつくらないってことですか。

久野

今までのやり方だと支店を出せば出すほど儲からなくなるので。

安田

それは転勤に伴う費用負担が大きいから?

久野

それもありますし、余計な人材がたくさんいたんですよ。

安田

ポストをつくるために増えていったってことですね。

久野

そういうことです。

安田

今後はどうなるんですか?ポストを得るための異動はなくなるってことですよね。

久野

そのエリアで使えない人はもう上がってこれなくなると思います。

安田

なるほど。

久野

働く人の感覚も変わってきました。家族と一緒に過ごしたいとか、土日は家にいてワークライフバランスを優先したいとか。

安田

ポストよりもプライベート優先だと。

久野

転勤とかに対して強烈なストレスや拒否感を持つ人が増えてます。

安田

なるほど。もう双方が望んでないんですね、転勤を。

久野

会社側は二極化してますね。はっきり「ありませんよ」っていう会社と、「給料は高いよ。その代わりグローバルでどこでも行かせるよ」っていう会社と。

安田

求職者が選べるってことですか。

久野

入口をきっちり分けないと人も採れないし、やる気を出してもらえない。NTTにも異動させる部署はあるでしょうけど、基本はもう異動させないってことですね。

安田

それで成り立つんですか。

久野

「異動OK」って人と「異動はさせない」って人で、役割分担すれば成り立ちます。

安田

異動OKの人ってどのぐらいいるんでしょう。

久野

最近は地域限定社員がものすごく増えてますね。

安田

やっぱりそうなりますよね。

久野

労働契約書には必ず就業場所を書かなきゃいけないんです。たとえば多治見で契約すると「東京支店できたから行ってくれ」とは言えない。

安田

強制じゃなければいいんですよね。

久野

はい。だけど異動の話をすると「し〜ん」となりますね(笑)

安田

収入よりプライベートの時間を優先する人が増えてるってことですね。

久野

そういう傾向です。

安田

だったら最初から大手商社や大手メーカーなんかに行かなきゃいいのに。

久野

そうなんですよ。相手のルール無視して就職しようとする人が多過ぎるんです。

安田

それで就職できるんですか。

久野

世の中の雰囲気的に「従業員のライフにもフォーカスしなきゃ」って感覚なので。

安田

伸び盛りのベンチャーには合わないですね。

久野

会社の事情と求職者の事情がぐちゃぐちゃになってます。商社に入っても「転勤しません」って言ったり。

安田

なぜ商社に入ったのか(笑)

久野

小売り業なのに「日曜日休みたい」とかは普通にあります。

安田

休みたくても休めないのが小売業なんですけど。

久野

本当びっくりしますよ。日曜日のシフトに毎回休みを入れてくる人もいますから。

安田

そもそも商社に入る人って「世界を飛び回りたい」って人じゃないんですか。

久野

昔はそうでしたね。

安田

それが嫌ってどういうことなんでしょう。

久野

いいとこ取りがしたいんでしょう。「大手なら安心して働けるよね」って。

安田

だけどそのビジネスモデルに伴う会社の事情に関しては、「知らん」ってことですか。

久野

知らんとは言わないですけど「関われる範囲でお願いします」みたいな。

安田

NTTほどの会社がなぜそこまで妥協するのか。採用に困ってないと思うんですけど。

久野

NTTは戦略ミスだと思います。たぶん、あまりいい人材が採れてないんですよ。人材の質を上げたいってことで、変に妥協しちゃったんだと思います。

安田

働く人の価値観に合わせすぎちゃったってことですか。

久野

仕事の楽しさをアピールせずに労働条件ばかりフォーカスしてしまう。

安田

採用でやってしまいがちな失敗ですね。

久野

それで集めた人って本当に役に立つの?っていう。

安田

仕事なんて大なり小なりデメリットがあるわけで。

久野

そうですよね。

安田

万人受けしようとしすぎですよ。仕事は楽しいし、休みは多いし、転勤はないし、みたいな。「これはあるけど、これはない」ってはっきり言えばいいのに。

久野

求職者の多くは役満みたいな会社に就職しようとしてます。

安田

そんな会社ないでしょ(笑)

久野

そうなんですけど。ただ雇用ってすごい長期契約じゃないですか。

安田

新卒だったら40年契約ですもんね。

久野

だから気持ちも変化しますよ。40年も同じ気持ちでいるなんて、さすがに難しいんじゃないかと思います。

安田

確かに。結婚したり子供ができたりしたら事情も感情も変わりますよね。

久野

そうなんです。だからなるべくマイナス条件が少ないところを選んじゃう。

安田

昔は「仕事だ」って言えば、家族もそれを了承してくれましたからね。

久野

今は下手したら離婚問題になりますから。

安田

やっぱ雇用期間が長すぎるんですよ。40年も同じ条件なんて無理です。

久野

あとは「仕事が楽しい」って言っちゃいけないのも、労働条件アピールに拍車をかけてますね。

安田

楽しいって言っちゃいけないんですか?

久野

やりがい搾取みたいに見られちゃうから。

安田

なるほど。家族にも言いにくいですからね。「俺は仕事が楽しいんだ」って。

久野

家族には言えるでしょう(笑)

安田

いやいや(笑)あんまり楽しそうだと「あなたは良いわね」って言われちゃうから。

久野

「私はこんなに大変なのに」って(笑)

安田

そうそう。「給料のために我慢してる」ぐらいが、ちょうどいいバランスなんですよ。

久野

それはちょっと悲しいですね。

安田

いろんな意味でワークライフバランスは難しいんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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