第159回 許されるのは5分が1回

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第159回「許されるのは5分が1回」


安田

サガン鳥栖の監督でしたっけ。パワハラで処分された。

久野

その監督ですね。

安田

隠蔽があったと言われてますけど。そもそもプロにパワハラなんてあるんですか。

久野

選手を蹴ったりしてたみたいなので。完全にパワハラですね。

安田

選手が逆らえないぐらい監督に権限があるんでしょうか。サッカーって、野球と違って自分で考えてやるイメージですけど。

久野

野球も考えてやるスポーツですよ。

安田

野球はいつ走るとか、何球目まで待てとか、監督の指示が絶対じゃないですか。

久野

その部分だけ見ればそうですね。

安田

サッカーの場合は、試合が始まってしまったら「選手が自主的に判断する」って聞いたんですけど。

久野

それは単にルールの違いですね。

安田

久野さんはサッカーをやってたんですか?

久野

私は野球をやってました。

安田

なんと。野球は合わなそうですけど。監督に怒られませんでしたか。

久野

怒られましたよ。

安田

「勝手なことすんな」みたいな。

久野

球拾いとか嫌いでしたもん。野球って待ってる時間がめちゃくちゃ長いんですよ。

安田

守ってる時間ってことですか。

久野

守備練習の時って、コーチは9個同時に打てないじゃないですか。

安田

はい。

久野

だから全体練習って、待ってる時間がめちゃくちゃ長いんです。

安田

なるほど。

久野

だけどぼーっとしてると怒られる(笑)集中して待ってないといけないんです。

安田

大変ですね。今回のパワハラについてはどう思いますか。

久野

じつは中小企業も4月からハラスメント防止施策が義務化するんですよ。

安田

また義務が増えるんですか。

久野

そうなんです。大企業は去年から義務化されてるんですけど。

安田

どういう内容ですか。

久野

中小企業ってハラスメントとか放ってあるイメージないですか。

安田

放ってるというより、たとえば営業なんかは多少きついこと言わないと、成果がでない気がします。

久野

そうですよね。でもこれからは相談窓口の設置とか、やらなきゃいけないんです。

安田

どのあたりからパワハラというラインなんですか?

久野

厚労省が一応そのラインを決めていて。まず身体的な攻撃とか、殴る蹴るは駄目ですよね。

安田

それは当然でしょう。

久野

ここからが難しいんですけど。精神的な攻撃みたいなものはダメ。

安田

どこからが精神的な攻撃かですよ。

久野

𠮟るのはいいんだけど、人格否定するようなのはダメとか。あと、ちょっと曖昧なんですけど、長時間にわたって詰め続けるのはダメとか。

安田

何時間以上がダメなんですか。

久野

そこが明確に決まってないんです。

安田

常識的に考えるとどのぐらいでアウトでしょう。

久野

今はもう5分以上でアウトじゃないですか。

安田

え!たった5分で。

久野

頻度にもよりますけど。

安田

頻度はどのぐらいでアウトですか。

久野

1日3回とか。

安田

1日1回ならOK?

久野

毎日やったらダメです。

安田

じゃあ3日に1回とか。

久野

そういう意味ではなく(笑)

安田

どういう意味なんですか。

久野

1回言ったら水に流す感じ。

安田

水に流す?

久野

さっきの監督と一緒。追い込んでやらせる時代は「もう終わり」ってことです。朝からネチネチやるのはダメ。

安田

5分以内で。1回だけ。それで水に流すと。

久野

朝言ったのならその時点で水に流す。昼にもう1回なんてのはダメ。

安田

「そんなので生き残れるか!」って感じですけど。プロサッカーですら、それはもう古いってことですよね。

久野

そうです。

安田

どうやって育てたらいいんですか。

久野

「ここ3試合で3点採れなかったら、もう2軍ね」みたいにしなきゃいけない。

安田

プロだったらそれでいいでしょうけど。企業はそれができないですよ。

久野

そうなんです。労働法がありますから。

安田

中小企業って、いい人材ばかり採ってるわけじゃないし。さぼる人とか、やる気ない人とか、ぼーっとしてる人とか、いますよ。

久野

いっぱいいそうですね(笑)

安田

それを管理するのに小言を言うなり、怒るなり、叱るなりって、必須だと思うんですけど。

久野

安田さんもやってましたか。

安田

私はそれが嫌で人を雇うのをやめました。

久野

外注だったらそんな必要ないですからね。

安田

はい。発注先を変えりゃいいだけ。でも雇ってると言わなきゃいけないし。こっちも嫌な気分になるし。

久野

そうなんです。

安田

それすらやっちゃいけないってことですね。もうそういうマネジメントはダメだと。

久野

もうオフィシャルにはできなくなるよってことです。今年の4月から。

安田

それ以外のマネジメントで中小企業は利益出るんですかね。

久野

仕事の結果で評価するしかないです。

安田

結果によって給料下げていいってことですか。

久野

評価制度を入れて、結果が出なかったら徐々に下げていく。生活が激変するような減給はダメですけど。

安田

そんな程度では変わらないですよ。やる気のない人にもたった5分しか注意できないし。

久野

だからちゃんと採用しなきゃいけないんです。企業には教育する義務もありますから。採用した時点で教育はセットなんです。

安田

教育してできるようになるぐらいだったら、苦労しないです。

久野

それでもやらなきゃいけない。やり尽くした結果、本人が「やる気ない」って言うなら仕方がない。

安田

「やる気はある」って本人が言った場合はどうなるんですか。

久野

困ります。やる気があって仕事ができない人の対処が、いちばん難しいんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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